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「偶然の確率」

「偶然の確率」

『ただいまの試合、上枝恵美加が決勝戦に進みます』

ステージを降りた少女は、ふう、と息をついた。
異常なまでの熱気に包まれた会場。
スポーツの試合でもない。
ロックバンドのライブでもない。
アイドルのじゃんけんに、この観客は一喜一憂しているのだ。

「ついにここまできた……決勝戦」

NMB48の上枝恵美加は小さく拳を握った。
AKB48、34thシングルの選抜。
それは、今大会で4回目になる、じゃんけんによるトーナメント方式の選抜。
運も実力の内、通称、じゃんけん選抜。
このときばかりは、人気も、先輩も、後輩も関係ない。
じゃんけんで勝ちさえすれば、毎日テレビに映る先輩よりも、一度もテレビに映ったことのない後輩の方が、前に出られるのだ。

「我慢比べ……読み勝った」

大場美奈との5連続あいこ。
どっちが先にじれて手を変えるかの我慢比べ。
上枝は勝利した。
大場の5連続グーによるあいこから、流石にそろそろパーに変えるだろうというパー読みのチョキ。
上枝は変えなかった。
6回目もグーを出し、見事に決勝進出を果たした。

「あと一回……勝てばいい。決勝の相手は……!」

その相手はちょうど正面から歩いてくる。
ゆったりと、確実に。
グループに入った時期的にも先輩であるし、人気知名度においても上枝の遥か上。
上枝も歩み寄って頭を軽く下げる。

「珠理奈さん。決勝はよろしくお願いします」
「うん。よろしく。決勝は何出そうかなー」

SKE48所属、松井珠理奈。
加入当時から天才と呼ばれ、いきなりのAKB48シングルセンター抜擢。
ダブルセンターという形で横に立っていたのは、48グループを知る者なら、知らない者はいない、前田敦子。
それからここまで、SKE48、そしてAKB48の中心メンバーとして、活躍してきている。
その天才が、運まで味方に付けて決勝まで上がってきた。

「やめてくださいよ、心理戦ですか?」

じゃんけんなのに、勝つか負けるかあいこになるか、どの確率も同じであるはずなのに、心理戦。
ただの偶然を『読み』とすることを認めたくは無かったが、不思議なもので、じゃんけんにも読み合いがある。
先ほどのように5回もあいこが続けばもうただの偶然で勝負が決したとは考えられない。

「じゃんけんに心理戦も何もないでしょ。全部は偶然にしか過ぎない。この決勝も」

珠理奈はあっさり否定した。
そして意味深な発言。

「え、どういうことですか?」
「まあ、お互い頑張ろうよ」
「は、はい」

その発言の引っかかりが上枝から取れないうちに珠理奈は会話を締めた。
辺りは騒がしかった。
もうすぐにでも決勝戦が始まる。
そんな中珠理奈は、一息ついて、改まった様子でまた話し始めた。

「時に、上枝さん、君、総選挙の順位は?」
「……圏外です」
「そっか。知ってるとは思うけど私は6位だった」

上枝にはこの質問の意味がこの時点では全く理解できなかった。
この時点では。
嫌味にしか思えない質問だが、それはそれで唐突すぎてよく分からない。
事実であるし、怒りも沸いてこない。

「それがなんですか? 総選挙の順位はこの選抜に関係ない」
「知ってる。関係ない」

質問の意味を珠理奈は答えようとしなかった。
そのまま同じ調子で続けた。

「今、AKB48のシングル連続ミリオン記録は何作か分かってる?」
「えっと……13作?」

シングルCDを何作連続でミリオンセール出来るか。
CD低迷の時代にこの記録を破ることは不可能とも思われていたが、AKB48は今、その記録を13作にまで伸ばしている。

「その通り。それは歴代何位の記録かは?」

変わらず質問攻め。
相手のペースで答え続けるのは気に入らなかったが、上枝は答えるしかない。

「……一位タイです」
「そう。まあおそらく、このままいけば33枚目もミリオンに届くだろうね」

賛否両論だが、握手券等の特典をCDに付属させることで爆発的に売り上げを伸ばしたAKB48は今、この長い音楽の歴史を塗り替えようとしている。
じゃんけん選抜の前に発売される33枚目のシングル。
未だ勢いが衰える理由が無い。
調子よくミリオンを売り上げる可能性は非常に高い。

「そこで、この34枚目のシングルだよ。じゃんけんで決めるこのシングル。大事な大事な、34枚目のシングルだ」

大事な、と珠理奈はわざとらしく強調して言った。
上枝は黙ってそれを聴いた。

「もちろん私達としては記録も伸ばしていきたいよねえ。絶対ミリオン売りたい。でしょ?」
「はい。それはもちろん」
「じゃ、誰がセンターになるべきか、だ」

この時ようやく、上枝は相手の言わんとすることが理解できた。
なるほど、そういうことか、と。
それに似たようなことは、ここまでの戦いで何度もあった。

「じゃんけん選抜はその名の通り運だけの選抜。人気メンバーを選んでる他のシングルとはわけが違う。当然売上だって落ちるのは仕方ない」

残念だけどねえ、と珠理奈はこれまたわざとらしく下を向いた。
言っていることは間違っていない。
上枝は表情一つ変えずにそれを見つめた。

「それでも、続いていたミリオン記録が止まったら。『AKBはもう終わりだ』って。誰だって思う。落ち目だって思われることは仕方がない。仲間も先輩も後輩もスタッフさんも、卒業していった先輩も、皆が『落ち目のAKB』を背負うことになる」

目の前の、まだ高校生である珠理奈の言っていることが、上枝は信じられなかった。
内容が、ではなく、それを発言する、という事実が信じられない。
しかし、マジだ。
この相手はマジでそれを言っている。

「そこまで、やりますか?」
「内田さんでは無理だった。でも、麻里子様、ぱるると総選挙でも上位のメンバーがセンターになったらミリオンは続いた。だから、もう一度、問う」

思わず口を挟んだ上枝の言葉を無視して、珠理奈は続ける。
平気で名前を挙げて、事実を並べる。

「誰が、センターになるべきか、を。圏外のあなたなのか、6位の私か。センターになれば注目される。でも、同時に非難も浴びる。事実、歴代のセンターを務めたメンバーは皆その苦労を語っている。ましてや連続記録がかかったシングルのセンター。失敗すればセンターであった人間のせいにされてもおかしくない。『センターの奴が悪い』と。その責任を背負えるのか」

ここまで言うのかこいつは、と上枝はもう一度心の中で思った。
和やかな雰囲気で健闘を称えあったのは始めの一言目だけだった。
既に上枝にも、珠理奈同様、笑顔なく相手を睨んでいた。

「何が言いたいんです?」

上枝は熱いものがこみ上げてくるのを必死で抑えた。
口調は強くとも、これだけ饒舌なのだ、おそらく相手も瞳の奥では冷静にこちらの様子をうかがっているはずである。
熱くなったら、負けだ。

「私は、パーを出す」

はっきりと珠理奈は言った。
そしてにやりと笑った。
その発言の意味は分かっていたが、あえて上枝は聞き返した。

「だから?」

その言葉に珠理奈は、笑いながら首を振った。
この状況では全ての仕草が演技にしか見えない。

「いや、言っただけ。事実ここまでパーしか出してない。もう一度言う、私はパーを出す。君はチョキを出せば勝てるね。でもそしたら、センター、大変かもしれないねえ」

やっぱりな、と上枝は思った。
呆れているわけではないが、こうなることはある程度予想がついていた。
どこからが運で、どこからはそうでないのか分からないが、全部パーで勝ってきているのには何か裏がある。
珠理奈が肩をポンと叩いてくる。

「2位でも十分じゃあないか。もうこれ以上は頑張らない方が身のためだと思うよ」

その言葉を最後に耳元で言うと、そのまま珠理奈は決勝の舞台へ向かって行った。
上枝も続いて向かった。
その途中で無駄なことを、と息をついた。
そんな言葉のプレッシャーごときでは負けない自信があった。

会場はこれまで以上に、観客の熱気と興奮に包まれていた。
ステージへ上がる。
スポットライトが当たる。
その瞬間に自分を押しつぶすほどの声援が降ってくる。
会場中の視線が自分に注がれている。
それが心地よく感じ……なかった。
上枝の足は震えた。

(何で……今までと大して変わらないはず……準決勝までは全然平気だったはずなのに……!)

ミリオン……責任……珠理奈の言葉が頭を回った。
センターになったら、相手にする人間はこの会場にいる人間の比では無い。
それはアイドルとして最高の幸せの、はず、なのに。
この震えは武者震いでは無い。

(言葉に惑わされるな……私はセンターになるためにここまで来た……今さらビビることなんてあるわけない!)

必死で否定した。
しかし頭の中の言葉とは全く逆に汗は吹き出し、足の震えは強くなり、手も震えだした。
相手の珠理奈に視線を移す。
小さな笑みを浮かべて前を見つめている。

(違いすぎる……余裕が。私とは全然)

上枝は改めて、松井珠理奈の凄さを目の当たりにした。
天才と呼ばれる理由を直接目で見て感じた。
こんな言葉で済ませるべきではないが、オーラが違いすぎる。

(この人に私は勝てるの……?)

目で見て分かるほどの素質を持っている。
にもかかわらず、じゃんけんですら勝とうとするほどのセンターへの執着心。
恐ろしかった。

(……勝っていいの?)

あらぬ思考が頭をよぎる。
グーを出せば楽になれると思った自分がいた。
首を振った。
ギュッと太ももをつねった。
痛みでもう一度自分を取り戻そうとする。

(違う……私には出来る。チョキを出せる。チョキだ……チョキを出す!)

チョキチョキチョキチョキ、と頭の中で繰り返す。
緊張で心臓がバクバクとなる音が聞こえるようだった。
向かい合った珠理奈の視線が刺さった。
年下とは思えない威圧感のある顔。
負けじと睨み返した。

(負けるか……チョキを……出しさえすれば……勝ちなんだから!)

汗が頬をつたう。
勝ちは決まっている。
あとはこのくだらないプレッシャーや緊張に勝つだけだ。
センターに、なれる。

(……勝つだけ?)

ここで上枝の思考が一旦止まった。
突然、自分の中の何かがブレーキをかけた。

(なんで私は漠然と勝ちが確定してると思ってるんだ……?)

勝ってセンターになるか、勝たずに身を引くか。
さっきから自分は勝つか負けるかを自由に選択できる立場になっている。
当然それは、相手の松井珠理奈が『パーを出すから、勝つか負けるか選べ』と投げかけてきたが故の考え方である。
これで勝つ方を選択して勝ち。
それはあまりにも、簡単すぎではないか。

(逆の立場で考えればわかる。この決勝の舞台であんな分かりやすいプレッシャーに負けてグーを出すか? いくらなんでも最終的には覚悟を決められる。それで簡単に勝てるわけがない)

確かに散々揺さぶられ、散々迷った。
しかしすでに自分はチョキを出す決心をした。
このままいけば間違いなくチョキを出すのだ。
それは、自分で無くとも、決勝まで上がってきた人間であればそんなに難しい事ではないのではないか。
ここで身を引くのが正解だと思うならば、こんな世界からは出ていくべきなのだ。

(ハメられているんだ……こんだけチョキを出せまいと動いているならば、逆にそれを突破すると読まれているんだ……だからこそここまでパーだけという事実が生きてくる。決勝で、確実に、勝つために……!)

実際にパーしか出していない。
そして、次もパーを出すからセンターを譲れ、という過剰なプレッシャー。
それを敢えて乗り越えさせてチョキを出したところをグーで確実にしとめる。
あまりに巧妙な罠。

(パーは無い。出すならグーかチョキ。グーを出せば負けない。あいこでもいい。一度落ち着いてから。今度はこっちが仕掛けてやる!)

土壇場のギリギリでそれに気づく。
宣言していたパーを削除。
ここまで防戦一方であるのは認めるしかない。
一旦、あいこで仕切り直し、相手のペースから外れる必要があった。
あいこを挟んでからの読み合いならば遅れを取る要素は無い。
拳を合わせ、会場のボルテージは最高潮に高まる。

(出すのは……グーだ……!)

手を振り上げ、決心する。
目をそらしたい気持ちにもなったが、それはしない。
この目で結果を見届ける。

『じゃんけんぽん!』

歓声で会場は揺れた。
次の瞬間、高々と手を上げていたは、松井珠理奈だった。

「そんなバカな……」

上枝は敗れたのだ。
珠理奈の手は、7連続目のパー。
宣言通りだった。
上枝は呆然とグーに握られた自分の拳を見つめた。

「こんなはずじゃ……」
「ま、分かってくれたなら良かったよ。ありがとう」

珠理奈が握手を求めてくる。
上枝はそれに素直に応えられなかった。
自分はあの言葉のプレッシャーに屈したわけではない。
それは相手も分かっていて、あえて『ありがとう』なんて言葉を投げかけてきた様子だったのが気に食わなかった。
情けなかった。

「違う……どこまで読んでた!」
「だから言ったでしょ。始めからパーだって。全ては偶然なんだから」

それだけ言って珠理奈はその場を去った。
あっけなさに上枝は笑った。
自分が勝手に深読みし過ぎた自爆なのか。
いや、7連続でパーを出すなんて簡単に出来るものではない。
去っていく松井珠理奈の背中が大きく見える。
運も実力の内。
神様は最後の最後でそのセンターの器に相当する精神力に味方したのだろうか。
毎回波紋を呼ぶじゃんけん大会は4回目をこれで終了する。
じゃんけんの確率が生み出す不思議な運命。
真相は誰もわからない。



ご愛読ありがとうございました。
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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Secre

No title

深いな~~
これは自分も頑張らないといけませんね・・・

Re: No title

> アイヌラックルさん

コメントありがとうございます。
深いですかね?
少しでも何か感じてもらえたら嬉しい限りです。
お互い頑張りましょう。

No title

面白かったです!すごい心理戦ですね!読んでいるだけでハラハラしてしまいました。
これが実際に行われてたとしたらもうじゃんけん大会はただの運勝負だけじゃなくなりますね。すごい深いです。

Re: No title

> やぴやさん

コメントありがとうございます。
心理戦っぽいものを書きたかったので、ハラハラしていただけたなら嬉しいです。
実際の所はどうなんでしょうね。
じゃんけん大会の見方が変わってしまいます(笑)

No title

「スラムダンクはできないけれど」の作風と全然違ったのでビビりました(笑)
たかがジャンケン、されど…少しディープでダークな感じがした小説で面白かったです。
読ませていただいて有難うございました。

Re: No title

>凛九郎さん

コメントありがとうございます。
続編を検討すると言っておきながら全く違う作品ですいません。
色んなタイプの小説を書いてみたいという気持ちがありました。
読んでいただきありがとうございます。
プロフィール

ウロマム

Author:ウロマム
どうも、ウロマムです。
AKB48さんの小説を書いてます。

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