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「スラムダンクはできないけれど」最終話

最終話「強き者よ」

「んじゃ、先行ってる」

授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いて、私は席を立った。
2学期が始まったばかりの学校は、久しぶりに会う友人に夏休みの土産話を話していたりだとか、提出期限である授業の初回まで宿題を粘っていたりだとかで、どこか浮足立っている。
真っ黒な日焼けはその満喫振りを思わせる。
自分も多少焼けてはいるが、結局、体をこんがりと焼くような場所へ遊びに行く暇は無かった。
相変わらず、皆が放課後の寄り道の場所を決めているのを横目に、私は校舎の奥へと足を運ぶ。
夏のほとんどの時間を過ごした場所だ。

「おーす、珠理奈! 久しぶり……じゃあないか」
「夏休み中ずっと会ってたからねえ」

大家さんと北原さんは既に支度を終えてシュートの練習をしていた。
今学期が始まってから、久しぶり、という挨拶をもう散々している。
つい定型文のように言いたくなってしまうのはよく分かる。

「あ、亜美菜さん……なんか顔色悪いっすね」
「あんま寝てないんだよお」
「えーっ宿題ですか!? 意外とギリギリまで残しちゃう人なんですね!」
「あーそうだよ、悪いかい」

続いて、眠そうな顔で亜美菜さんも体育館に入ってきた。
ちなみに私は、ちゃんと宿題を終わらせている。
31日、いや日付も変わって1日になった深夜に泣きながら答えを移す作業は今まで何度も経験してきた。
今年の夏こそはそれを回避してやったのだ。

「にしても暑っついなー」

部室には誰もおらず、独り言だった。
教室から体育館へ移動しただけで、すでに薄く汗をかくほどの暑さに文句を言いながら着替える。
バッシュの紐が大分ボロくなっているのに気付いた。
靴裏の溝も削れて浅くなっている。
買い換えるほどでは無いにしたって、入部する直前に買ったバッシュが半年足らずでここまでになるとは、我ながら随分使い込んだものだった。
ふと、机の上に置かれた雑誌が目に入る。
ちょうど、あの前田敦子が、日本から離れる前のインタビューのページが開かれていた。

彼女に勝ったとは思っていない。
最後まで止めることは出来なかったし、あれ以来私はゾーンに入れない。
そのまま旅立たれてしばらく勝負できないのは残念だが、いつか必ずリベンジする。
向こうが戻ってくるか、それとも自分が追って行くことになるか。

「なーに見てんの?」

突然後ろから声がした。
振り向くと、宮澤さんが覗き込んでいた。

「さしこー、珠理奈が自分の表紙見てニヤニヤしてる」
「いやいや違いますって。思いっきり前田さんの記事でしょうが」
「なんだー珠理奈。取材受けたからって調子に乗ってるのかあ? 言っておくけど指原にだって取材は来たんだからね」

その宮澤さんのさらに後ろから指原さんも覗き込んでくる。

「さしこの記事、ちっちゃ」
「それは言わないでくださいよー」
「今度4番つけたら、大きくなるって」

自然と、部室の奥に目が移った。
大して変わりのないこの都立十桜高校バスケ部だが、この夏の間に1つ、大きな変化があった。
空になったロッカーと、ぽっかりと空いた真ん中の席。
4番のユニフォームだけが、寂しげにハンガーにかけてある。

「もう、そこに座ってもいいんだよ?」
「いやーまだ今の席でいいですかね。とりあえず宮澤さん卒業するまでは」
「そんなの気にしなくていいよ」

部長でありキャプテンだった秋元さんが引退した。
全国であれだけの活躍、当然注目はされていたと思う。
しかし秋元さんは、家族のためだと聞いたが、国公立大学への受験を選択した。
宮澤さんとも話し合った結果らしい。
しかし、未だにその空いた席を見て、寂しそうな顔をしている宮澤さんをたまに見る。

「部長かー……ホントに指原でいいんですかね?」

そして新部長は指原さんになった。
これは、秋元さんと宮澤さんの指名だった。
まだ、秋元さんのように厳しく怒ったりすることは無いが、すでにチームを引っ張ろうという気持ちが、少なくとも私には伝わっている。

「あれ、玲奈ちゃんは?」

明音が部室のドアを開けて、私を見るなり言った。
マヌケなことに、その探す人物は明音の肩越しに顔が見えている。

「掃除当番で遅れる……ってか後ろにいるじゃん」
「うえっ!? ちょ、玲奈ちゃんいるなら言ってよー」
「今、言おうとした」

やだなー、と玲奈の肩を明音は叩いた。
ふふ、と明音をからかうように、玲奈は笑った。
玲奈とは、今までと大して変わらず、遠いような近いような関係が続いている。
それでも、夏前よりはクラスの中でも話すことが増えた。
少なくとも、玲奈が一人ぼっちで寂しくしている場面はもう無い。
部室に来るのもいつも一緒であるから、セットのように思われているのも仕方がない。
もちろん、練習では、いや試合でも、一番のライバルだと思っている。
玲奈に勝ちたい、玲奈より活躍したい、といつも思ってる。
それでも、コート上で一番頼りにしているのは、玲奈なのかもしれない。

「さて、さっさと着替えて練習始めましょ!」
「お、流石部長の指原様。みんな早くしろー、指原様が怒るぞー」
「ちょ、宮澤さん、それ言わないでくださいよ」

バッシュの紐をもう一度結びなおす。
ボールかごにタイマー、雑巾がけ。
そして申し訳程度の扇風機も倉庫から引っ張り出す。
練習が始まろうとしているとき、体育館の入り口から1人、顔を出した。

「あ……秋元さん!」

宮澤さんを除く全員が一斉に挨拶をする。
引退した秋元さんが、また部活を見に来てくれた。
また、というのは、これが一度目ではないからだ。
インターハイが終わってから、引退を決めてから、何度も秋元さんは部活に顔を出してくれる。
もちろん、制服姿から着替えることは無いのではあるが。

「あのさー、勉強するって引退したんだからさー、毎日のように見に来てどうする!」
「ごめん佐江。それを言われると何にも言い返せないけど……つい」
「だったら今度から練習着とバッシュ持って来い、このやろー!」

もう来るな、と口ではそう言っているが、秋元さんが来ると宮澤さんはいつも嬉しそうにする。
個人的には、もう一度あの2人が並ぶ姿が見たいけれど、今は別々の道だ。
それがいつかまた一つになるかもしれない、と私は思っている。

「あのーそろそろ始めていいすか、練習」
「あ、すいません、指原様」
「ちょっとー、秋元さんまで! もういいです! マジで鬼キャプテンになりますからね! 鬼キャプテン!」

この都立十桜高校バスケ部に入って、まだ半年も経っていない。
でも、その内容の濃さはまるで何年も過ごしたかのようだった。
まだまだ上があることを知れた。
私は、もっとそこに近づきたい。
上を目指したい。

「よっしゃー、じゃあ気合い入れていくぞ!」

これからどんな試練が待ち受けているのか分からない。
それでも皆と支え合って、私は進む。
今よりももっと輝いて。

「十桜っーーー……ファイっ!」
「おおう!」

私は走り続ける。



ご愛読ありがとうございました。
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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

Secre

今までありがとうございましたm(_ _)m

ほんとに楽しかったです
あのあと優勝したかどうかは気になりますがほんとに素晴らしい物語でした

本当にありがとうございましたm(_ _)m

Re: タイトルなし

>キラさん

コメントありがとうございます。
そして、こちらこそ、毎回のコメントありがとうございました!
小説を書く励みになりました。
あの先どうなったのかは、卑怯なんですが、ご自由にご想像くださいということで。
楽しんでいただけて非常にうれしく思っています。
プロフィール

ウロマム

Author:ウロマム
どうも、ウロマムです。
AKB48さんの小説を書いてます。

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