スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「スラムダンクはできないけれど」第90話

第90話「少女たちよ」

会場は一転、妙に静まり返っていた。
理性が吹き飛んだような、怒号のような声。
それで一杯になる会場を、タイムアウトのブザーが制した。
76対77。
試合はひっくり返ったのだ。
王者対無名校。
一時は20点以上の点差。
それでも、今、リードしているのは都立十桜。

「白ボールで、再開します」

審判の笛が鳴る。
両校の、全ての思いを託された5人がコートに出る。
タイムアウトの静けさから解放され、再び、祈るような応援が始まる。
もうすでに、皆で一緒の、などという応援では無い。
各々が自分の思いのたけを叫んでいた。
コートサイドには選手、関係者で一杯に埋まる。
会場全ての人間が、この試合の結末を目に収めようとしていた。
残り時間は、30秒。
決めるか、止めるか。
大島にパスが入って、時計が動き始める。


「私が決めるよ」
「相手もそう来ると思ってるかも」
「それでも決めるから」


光宗をスクリーンにして、前田がボールを貰いに上がる。
右サイド45度、スリーポイントラインの外の最高のポジション。
大島からの鋭いパスが入る。
対する十桜は、スクリーンで遅れる珠理奈をフォローする形で、宮澤が先に前田のマークに付く。
珠理奈がすぐに追いつき、瞬間的にダブルチームになる。
しかし、前田はこれに全く臆することなかった。
内側への左ドライブ、躊躇は無い。
その一歩目で、宮澤を抜き去る。
ディフェンスをかわして即ジャンプシュート、のタイミングの直前に珠理奈は追いついた。
フリースローラインの手前で、前田を捕らえる。
その直後、前田がわずかにスピードを緩めるのを珠理奈は見逃さなかった。
チェンジオブペース、さらにここからギアを一段階上げてくる、と珠理奈は読んだ。
前田の呼吸を、体の動きを、リズムを感じ取る。
膝が曲がり、さらに前傾姿勢になり、腰が深く沈む。
珠理奈もそれに合わせて動いた。

次の瞬間、一歩後ろへと下がったのは珠理奈だけだった。
ボールは前田の足の間を通りもう一度同じ場所にとどまっている。
神が舞い降りたかのように前田と重なっていた何かが途端に離れていった。
前田との距離が開く。
シュートチャンスを与えてしまう。
珠理奈は焦った。
しかし、このとき焦ったのは前田もだった。

渾身のフェイクでシュートが打てる間合いは作ることが出来たが、それでもまだ足りない。
完全に珠理奈のシュートチェックをかわすことができない。
それを頭では分かっていたが、体はもうすでにシュートの体勢。
打つしかない。

珠理奈は必死で右手を伸ばした。
一歩下がってしまった足をもう一度前へ踏み出す。
ボールには触れられない。
しかし、その右手の平は前田の視界を確実に遮った。
ただでは打たせない、執念のチェック。
シュートは放たれた。

パスッ。

ボールがリングを貫く音がコートに響いた。
一瞬、会場は嘘のように静まり返った。
観客全員が次の言葉を吐き出すために息を吸ったのだ。
それは、2つに分かれる。
奇跡を掴んだ大歓声と、目前でそれが手からこぼれた悲鳴だった。

残り10秒を切ったところで止まったタイマーを一瞬だけ視界に入れ、宮澤はパスを入れる。
異常な会場の熱気とは逆に驚くほど冷静だった。
すぐに自分がパスを入れるべきだと分かったのだ。

宮澤の前を横切るように移動して指原はパスを受けた。
すぐに大島がマークしてくる。
自分だけではフロントコートに持ち込めない。
そのとき、フリーで走り込む玲奈が見えた。

秋元は、宮澤から指原へパスが入ると同時に玲奈へスクリーンをかけていた。
これだけ追い詰められた場面、前へと走ってしまうのは当たり前のことで、実際それがミスであったとしても咎められはしない。
そんな中秋元は、その場にとどまり、スクリーンをかけて玲奈を走らせた。
指原から玲奈へ、パスがつながる。

ボールを受けた玲奈は一気にフロントコートへドリブルで運ぶ。
追ってくるディフェンスを振り切る。
残る体力全てを振り絞ったドライブ。
ミドルレンジに入ったところで、シュートに移行した。
躊躇している時間は無かった。
しかし、相手は3人いた。
山本、増田、そして大島がチェックに出ていた。
成功率の高いシュートでは無いが、この状況で打たないわけにはいかない。
その時、パスを呼ぶ声が聞こえた。

飛び上がった山本と増田の間から、ボールが出る。
ギリギリのところで、玲奈からのパス。
そのボールを掴んだ珠理奈はゴールへ突っ込んだ。
時間が無い。
秒読みの声が耳に入った。
立ちはだかる光宗と前田のチェックに向かって飛び上がった。
チェックをかわすために、空中でボールを引く。
そのダブルクラッチでも、前田のチェックが外せない。
珠理奈は身体をひねった。
ゴールが視界から切れた。
前田をかわす最後の手段。
見えないゴールをイメージして、珠理奈はボールを放った。
その直後に、タイムアップのブザーが鳴った。

「いてっ」

体勢を崩した珠理奈はそのままコートに尻餅をついた。
顔を上げた時にはすでにボールはコート上で弾んでいる。
どうなったのか、分からなかった。
歓声が何を示しているのか分からなかった。
ただ、目の前の玲奈が、自分に勢いよく抱きついてきたとき、分かった。
あの玲奈が、ここまで嬉しそうに自分へ飛び込んでくるなんて。

「珠理奈ー!」

次の瞬間には、どんっ、と指原、宮澤、秋元、3人分の衝撃を2人は受けた。
続いて駆け寄ってくる、すでに号泣する高柳、大家、北原、佐藤が見える。
このとき、都立十桜高校バスケ部に入って以来初めて、珠理奈の頬に涙が伝うのだった。
得点板には刻まれていた。
78対79。
まぎれもなく都立十桜高校の勝利だ。
今大会最大の番狂わせに会場は熱狂の渦が巻いた。
優勝したわけでもないのに、だとかそんな野暮なことを言う人間はいなかった。

「あー、負けてしもうた」
「結局、中学から変われてなかったのはうちらの方だったのかな……」

まさに明と暗。
コートの去り際、仲間と喜びを分かち合う宮澤と秋元の後姿を、増田と梅田は見つめていた。
お互いの3年間をぶつけあった結果であることは分かっていた。
悔しさがこみ上げる。

「いや、またいつかリベンジする」
「……そうだね。絶対に」

これが高校で最後の対戦になるかは分からない。
もしそうなっても、卒業した後でも。
バスケを続けていれば、いくらでも、勝負できる日が来る。
そしてまた、同じチームでバスケをする日が来る、かもしれない。

「うちのせいやっ! うちがヘマしたせいで……」
「そんなに泣くなって。誰か一人のせいじゃないっての」
「先輩たちは最後のインハイなのに……」
「ほらほらミッツまで。元気出して」

コートから去った瞬間、山本は顔を覆った。
光宗は足から力が抜けてしまったように倒れ込んだ。
最強の高校であるが故のプレッシャー。
1年生でそれを背負うのは余りにも酷だった。
そんな2人を大島は優しく抱き寄せた。
様子を見ていた前田と顔を見合わせる。
2人は泣きじゃくる後輩に、嬉しい苦笑いを浮かべた。

「優子、私は安心してるよ。そりゃめっちゃくちゃ悔しいけど。……頼んだよ」

悔しさをにじませながらも、前田の表情はどこから晴れやかだった。
負かされたことが嬉しい、とは言い過ぎかもしれないが、そんな表情だった。
大島は深く頷いた。

「あっちゃん……うん。あとは任せて」
「夢が叶ったら。迎えに来るよ」
「……行ってらっしゃい」

この数週間後、前田は旅立った。
まだ見ぬさらに外の世界への挑戦。
それがどんな結果になるのか、それはまだ先の話になる。

「勝っちゃった……マジで帝桜に勝ちやがった」
「もしかしたら次あっさり負けたりちゃったりして。こういう勝利の後はよくあるあれですよ」

ほとぼりが冷め、立ち上がっていた菊地と渡辺は座席へ戻り、改めてこの試合を実感した。
あれだけ必死に応援していた渡辺は、我に返ったように、この結果に拗ねた表情を見せた。
菊地は笑いながら、言った。

「麻友だってわかってるくせに。このチームはもう、そういうレベルじゃないって」
「今度は……冬ですね」

選手の数だけ、この大会に、バスケに懸ける思いがある。
それが早い段階で潰えてしまうのか、それとも最後まで果たすことができるのか、それはまちまちだ。
その数えきれない思いを背負って、この大会は終了を迎える。
傷つきながら、涙を流しながら、少女たちの夏が、終わる。

続く

次回、最終話です。
スポンサーサイト

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

Secre

勝った!!

珠理奈やっぱりすごい!


次最終回∑(゚Д゚)

Re: タイトルなし

> キラさん

コメントありがとうございます。
ここまで読んでいただき嬉しく思ってます。
あと少しだけ、お付き合いいただければと思います。

No title

次回最終回…だと…

どんな終わり方するのか楽しみです(^O^)

Re: No title

> 禰呼さん

コメントありがとうございます。
時間がかかっていますが、必ず更新するので、あと少しお待ちください。
プロフィール

ウロマム

Author:ウロマム
どうも、ウロマムです。
AKB48さんの小説を書いてます。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
検索フォーム
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。