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「スラムダンクはできないけれど」第87話

第87話「やるんだよ」

「間違いない。敦子は入ったんだ」

前田の鬼気迫る表情に篠田は見覚えがあった。
代表として同じチームで試合をしたときであったか。
ああなってしまっては誰も止められない。

「ただでさえ手を付けられなかった前田が、ゾーンに……?」

極限の集中状態。
『ゾーンに入る』と称されるそれを、高橋は何度も目の当たりにしてきた。
チームメイトである小嶋の試合終盤の爆発力には近いものがある。
そしてこの試合、前半で松井玲奈が見せていた。
それを、この終盤で、あの前田が、入る。
言うまでもなく、絶望だ。

「あの状態になった前田を止めるには、同じ領域に入るしかない。……でも、もう松井玲奈は」

すでに前半で力を使い果たしている玲奈にはもう一度ゾーンに入ることは叶わない。
前田を止めることが出来る選手はいない。

「早くボール奪わないと……時間が」
「帝桜は時間使って、最後は前田で決めるだけでいい。間違いなくそれを狙ってる」

そのあとの言葉は続かなかった。
篠田も小嶋も、高橋も峯岸も黙って見ていることしかできない。
十桜の選手が必死にボールを追っても、奪うまではいかない。
時間がどんどん過ぎていく。
そのとき、小嶋達の席より少し離れた場所から、突然大きな声が聞こえた。

「なんとかしろおおお! それでも東京代表かあああ!」

叫び声にも近いその声に他の観客も思わず振り向いた。
汚い野次にも思えたが、その声には間違いなく応援の色が表れていた。
そしてその声の主は小嶋達にとって意外な人物だった。

「あれは、渡廊高校の渡辺!?」
「なんだ急に?」

自分に刺さる視線に気づいた渡辺は、ハッとしたように頬を赤らめて座った。
周りを気にせず思わず声が出てしまった、といった様子だった。

(へえ、意外と熱い子なんだね)

渡辺に対してクールな印象を抱いていた篠田はこの出来事に驚いた。
しかし、すぐに、さらに驚かされることになった。

「そうだこらー! 負けんなこらー!」

もう一人、同じように声を飛ばした。
篠田のすぐ隣、小嶋だった。
それに続くように、高橋と峯岸も立ち上がっていた。

「ここまで来たら勝てー!」
「諦めんなー!」

まだ声は聞こえていた。
3回戦で十桜に敗れた、柏木達、深中高校の声だった。
自分たちが負かされ、夢を奪った憎い相手。
しかし同時にそれは、夢を託した相手でもある。
今はコートの外から、背中を押すしかない。
渡辺の声をきっかけに十桜サイドの応援は再び活気を取り戻した。

「落ち着け。やることは決まってる」

帝桜は丁寧にボールを回した。
冷静に時間を使う。
そして声援虚しく、帝桜の組み立て通り、24秒を使い切る直前に前田にパスが渡る。

「ダメだ……前田を止めない限りはどうにもならない」

この試合何度もあった絶体絶命のピンチであるが、絶望感はこのときが一番だったように思えた。
立て続けに決められた2本ですぐに分かる。
とにかく今の前田は抜きに出て圧倒的だった。
どうしようもない。

(情けない……この大事な時に私は。まだたったの15歳の1年生を頼りにしてしまっている……)

秋元の目に映るのは、珠理奈の背番号10番だった。
今にも『頼む』と声に出してしまいそうな自分を恥ずかしく思った。
しかし、それは秋元だけでは無かった。
宮澤も指原も玲奈も。
そして、お互いの手をぎゅっと握り合っているベンチの高柳達も、ただただその光景を見守るしかなかった。
何の策も思いつかなかい。
祈るしかなかった。

(また、やられるのか?)

珠理奈は自分に問いかけた。
前半で決まりかけた試合を玲奈が繋いだ。
秋元と宮澤がインサイドで点を取り続けた。
指原が大島に一矢を報いた。
なにより、ここまで勝ってこれたのはチーム全員のおかげだ。
口で言われなくたって、仲間の思いは伝わっている。

(大事なところで何もできなくて何がエースだ。やるんだよ、今。勝たなきゃならないんだよ)

前田がドライブを仕掛ける。
この試合最速とも言えるスピードで、珠理奈を脇をすり抜けた。

「珠理奈ちゃん……!」

高柳の悲痛な声が響く。
前田が珠理奈を突破し、ゴールへ向かう。
その刹那だった。

チッ。

秋元は自分の手元にボールが転がってくるのが見えた。
前田がドリブルしていたはずのボールが、だ。
そのボールを掴むとすかさず前に投げた。
パスの先には、誰よりも速く走る珠理奈がいる。
そのままレイアップシュートが決まった。
瞬く間の出来事だった。

「何が……起きた?」

篠田達を含め、誰もが瞬間この試合から置いていかれていた。
何事も無かったかのように帝桜がもう一度オフェンスを始めている。
ただ、点差が3点になっていた。
帝桜からボールを奪ってものの3秒で、十桜は2点を返した。

「ボールは、なぜ敦子の手元から離れた?」

前田がドライブで珠理奈を抜き去るまではよく見えていた。
しかし、次の瞬間には秋元の手にボールが収まっていたのだ。
前田が自らのミスでボールを失ったのか。
そんなわけがなかった。

「触れたのか……後ろから……! 敦子のフルドライブに追いついて……!」

抜かれた直後、珠理奈は身体を反転させた。
そして前田の後ろにピタリと張り付いたまま、目の前のボールを弾いたのであった。
さらに、そこから誰よりも速く切り返したダッシュで、相手を置き去りにしてシュートを決めた。
それは、1つの事実を表していた。

「落ち着いていこう。とりあえず1本だ」

3点差に浮足立つチームを大島が制する。
それが役目とはいえ、平静を装う大島にとっても、前田が止められたことは大きな衝撃だった。
何より、次のオフェンスは確実に決めたいにもかかわらず、より難しい状況になった事実が大島の頭を悩ませた。

(なんて奴だよ……この土壇場で……入りやがった)

続く
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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Secre

さすが珠理奈!!

エースはやっぱり珠理奈なんだ!


ウロマムさん毎回ありがとうごさいますm(_ _)m

Re: タイトルなし

> キラさん

コメントありがとうございます。
感謝すべきは私の方です。
いつも読んでいただきありがとうございます。
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Author:ウロマム
どうも、ウロマムです。
AKB48さんの小説を書いてます。

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