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「スラムダンクはできないけれど」第80話

第80話「やるしかない」

珠理奈はコートの外へ転がるボールを見つめていた。
湧き出てくる感情は単純だった。
勝ちたい、と、悔しい。
他の感情は無かった。
そんな珠理奈に突然、前田が言った。

「……最後なんだからさ。もっと楽しませてよ」
「最後……?」
「夏が終わったら、私はアメリカだ」

その言葉に珠理奈はピクリと眉下を動かして驚きを見せた。
挑発されている、と思うと同時に、最後、そしてアメリカ、という言葉が頭に残る。

「こっちのバスケはもう、『卒業』。外の世界で私は勝ってみせるよ」

淡々と前田は語った。
その言葉には、自慢も、自信も、謙虚さも、ない。
ただ事実を述べた、という感じだった。
対する珠理奈の頭の中には様々な考えが浮かんだ。
突然の言葉に半分混乱もしていた。
前田がアメリカに行った姿、そして自分がアメリカに行った姿、色々想像した。
しかし最終的には、シンプルな答えに行きついた。

「良かったよ、先に聞いといて」

前田がどんな意図で珠理奈にこれを告げたのかは分からない。
特に意味は無い、ただの雑談なのかもしれない。
それでも珠理奈にとっては『良かった』のだ。
珠理奈の中の何かがさらに引き締まる。

「これで私の中の、『リベンジ』の可能性が完全に消えたわけだ」

要は前田と直接対決できるのは、高校生のうちはこれが最後ということだ。
どこか心の奥底に残っていた、この言葉が消滅した。
もうこの試合でやるしかない。
珠理奈は、笑った。

「勝ち逃げはさせない……ここで世代交代だ」

十桜のエンドラインからのスローインで試合が再開される。
玲奈が審判からボールを受け取った。
指原にパスが入る。
ボールを受け取れるタイミングを計る珠理奈を見ながら、篠田は考えた。

(選手として完成度じゃ現状敵わない……ただ一点、松井珠理奈が優る点があるとすれば)

ドライブは速い、スリーポイントも打てる、パスも出せる。
基本的にドライブしか武器が無い珠理奈とは圧倒的戦力差。
冷静に分析すればするほど、前田と珠理奈の差ははっきりとする。
十桜に24秒が迫ってくる。
ようやく珠理奈がボールを貰いに動き出した。
この試合幾度となく行われたエース対決は、最も重要な局面を迎えようとしていた。
帝桜が突き放すか、十桜が食い下がるか。

(……なんだ?)

珠理奈がボールを受けた。
しかしその場所は、スリーポイントラインより数歩分、外側の位置だった。
ゴールとの距離が遠い、シュートの選択も無い場所。
特別な理由が無い限りはいい選択とは言えないポジショニング。
前田は深追いせずに、スリーポイントライン上で珠理奈を待ち構える形を取った。
その場所で珠理奈にボールを持たせてもシュートは無い。

(何を考えてる?)

その距離のシュートは絶対にない。
この場面で打つわけない。
打たせても何の問題もない。
だったらわざわざ間合いを詰めてドライブで抜かれるリスクを背負う意味は無い。

(ドライブなんて……あっ)

この状況の理解に張り巡らせた前田の思考がつながる。
しかし、もう遅かった。
すでにそのときには、珠理奈との間合いがほとんどなくなっている。
自分が、後ろに下がるよりも遥かに速く。
ディフェンスの間合いでは無い。
オフェンスの間合い。

(この速さ……!)

それは、珠理奈の加速力。
ほんの少し、ドリブル数回分空いた前田との間合い。
普通であれば間合いが離れればディフェンスはオフェンスのコースを読み易くなり、メリットは無い。
しかし、このときの珠理奈はただ前へのドリブルで、前田との間合いを詰めただけ。
前へのドリブルをつける間合い、珠理奈にとっては前田のプレッシャーを受けることのない自由な空間。
その数歩で珠理奈は異常な加速力を見せつける。
珠理奈が前田の間合いをつぶす形で、右か左か2択を迫ったのだ。
加速するより前に、逆に前田にコースを絞られていた今までのドライブとはまるで別物。
前田と接触する直前で珠理奈は急減速からコースを変えて、もう一度急加速。
さらに姿勢を低く前田の懐に飛び込んだ。

(ダメだ。追いつかない)

ここまで差し込まれてしまっては前田は珠理奈を見送るしかない。
前田を抜いた珠理奈の先に見えるのはゴールと、その前でチェックに出てくる光宗薫。
シュートに踏み切った珠理奈は、空中で光宗のブロックをかわす。
ダブルクラッチでボールをリングに放り込んだ。

「おお……」

思わず篠田の口から声が漏れた。
その小さな声が辺りに響いてしまうほど、余りのことに会場は静まり返った。
得点が入り、何が起きたのか観客が理解したとき、歓声はやってくる。

「速ええええ! なんだありゃ!」
「松井珠理奈ってあんなにやばかったっけ?」

大歓声の中で峯岸と小嶋も驚きの声を上げた。
高橋と篠田は開いた口がふさがらない。
前田を抜き去り光宗を空中でかわす。
さながら男子選手のような動きは、会場に衝撃を与えた。
勝負所でのエース対決。
ついにここで、十桜が一本奪ったのだ。
高く分厚く堅い、盤石の帝桜の壁に傷をつけた。

「やられたね。ドンマイ、あっちゃん」
「……優子だ」
「へ?」

大島は間抜けな声を漏らした。
ドンマイ、なんて前田には滅多に掛けない言葉を使ったところ、突然自分の名前を出された。
きょとんとする大島に前田は笑みを浮かべた。

「まるで優子にやられたときみたいだった……あの速さ」

中学時代、全国大会での前田敦子と大島優子の直接対決は3回。
1回目、そして3回目は前田が勝利し勝ち越す形になっている。
しかし2回目。
前田は大島に、まさか、という形で敗北している。
そのときに対戦した大島優子。
リズム関係なしの圧倒的なスピードで抜き去られた。
当然中学時代と今ではまるでバスケのレベルは違う。
しかし感覚は。

「似てたよ。あの松井珠理奈に優子を見ちゃったよ、私」
「あ、あたし?」

大島は前田が言っていることを完全には理解できなかった。
それでも、嬉しそうに珠理奈を見つめる前田に不安は感じなかった。
前田がやられて嬉しそうにしてる姿なんて、長らく見ていない。

「ここ止めてもう一本だー!」

小嶋達が声を出す。
もはや選手としての立場関係なく、純粋な応援の声だ。
珠理奈があれだけ前田を綺麗に破ったのだ。
期待せざるを得ない。
しかし前田はそれを打ち砕くようにあっさり珠理奈を抜き去った。

「ぎゃー! 簡単に抜かれた―!」
「いや……違う、あれは柏木相手に見せた……!」

珠理奈を抜き去ってジャンプシュート。
いつもの前田のパターンだ。
抜かれた珠理奈は猛スピードで後ろから迫る。

「わざと抜かせたのか!」

しかし前田のシュート動作が途中で止まる。
珠理奈だけが前田の前を飛びながら通り過ぎた。
それをさらに読んでのフェイク。
前田はもう一度シュートモーションに入った。

(まだだ……!)

珠理奈も遅れて、もう一度飛びついた。
距離が離れている。
到底シュートチェックには届かないが、珠理奈の狙いは違う。
珠理奈の右手が、前田の顔を覆っていた。

「リバウンド!」

突然奪われた視界に前田の手元は狂った。
ただでさえ、珠理奈と読み合った後だ。
流石の前田でも、この状況でいつものシュートは打てない。
秋元と光宗が競り合ったボールは大きく弾かれ、玲奈の手の中に転がった。

「玲奈! 前!」

指原が走っていた。
声が耳に入った玲奈はキャッチと同時、大きく前へパスを出した。
パスを受けた指原が一気にゴールへ向かう。
しかし、それをさせないのが、帝桜のポイントガード。

(大島優子……! ここは勝負するしか!)

あっという間に回り込んでくる大島を指原は抜きにかかる。
これだけスピードが出てればオフェンスが有利。
クロスオーバーでコースを変える。

「甘い」

それでも大島はボールに触ってくる。
ボールが無防備になるわずかな隙を見逃さない。
指原の手からこぼれたボールはラインの外へ向かって行く。
さらに最悪なことに、最後に触れたのは。

(指原が触れてる! ここで相手ボールなんて! 死んでも嫌です!)

必死の思いで指原はボールに飛びついた。
ラインギリギリでボールを止めたが、体の重心はすでにコートの外へ飛び出そうとしていた。
コート内に投げ込むしかない。
同時に後ろから声が聞こえてくる。

「さしこ! こっちだ、投げろ!」

振り向いている余裕はない。
声の方へ、指原はボールを投げ込んだ。
それをキャッチした宮澤がドリブルで突き進む。
視界には増田、そして光宗まで戻ってくるのが見えていた。
2人のチェックを受けながら、宮澤はシュートに踏み切った。

「お返しだ」

宮澤がボールを外側へ持っていく。
左手でチェックを防ぎながらのシュート。
光宗に散々やられていたフックシュートだ。

「佐江にフックシュートはないやろ」

増田の言うとおり、宮澤にはフックシュートなんて武器は無い。
これでシュートを外して終わってしまえば、速攻のチャンスをつぶして、相手ボールになる最悪の選択だ。
そして、シュートは外れた。
何も考えずに打ってしまった無謀なシュートだったのか。
それは違った。

(苦手なのによく走ってた)

宮澤には増田と光宗と、もう1人見えていた。
必死の形相で逆サイドを走ってくる、親友が。

「才加」

リバウンドに秋元が飛び込んだ。
光宗がチェックに出るが、この位置では秋元が優位。
そのままゴール下シュートを押し込んだ。

「決めた……これで」

篠田が息を呑む。
十桜にまた得点が追加される。
帝桜のスコアが動かないうちに。
4点、十桜のスコアに加えられる。
そしてその点差から受ける印象は、今までよりも圧倒的に、迫っていた。
ここまでずっと、見えもしなかった背中がついに、見える。

「9点差……!」

続く
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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Secre

珠理奈ついに来たーーー*\(^o^)/*

前田を抜くなんてすごい!!

9点差もしかしたら…

Re: タイトルなし

>キラさん

コメントありがとうございます。
ようやく珠理奈の反撃です。
この点差、どうなるのか。
お楽しみにです。
プロフィール

ウロマム

Author:ウロマム
どうも、ウロマムです。
AKB48さんの小説を書いてます。

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