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「スラムダンクはできないけれど」第79話

第79話「エースの差」

「驚いたよ。顔つきが全然違う」

睨む珠理奈の目を前田は真っ直ぐ受け止める。
ベンチに下がる前と後、珠理奈は別人のように表情が変わっていた。
吹っ切れたような迷いのなさが、自らに向けられた視線だけで分かる。

(あっちゃんが押し込まれたのは、松井珠理奈が間違いなく変わったからだ。シュートに迷いが無かった)

大島も同じことを感じていた。
前田は間違いなく珠理奈のドライブに反応できていた。
それでも競り負けた。

(第3ピリオドまでの彼女なら間違いなくパスしてた。あっちゃんの頭にはパスがあったんだ。私だってパスすると思った)

しかし珠理奈はシュートまで持ち込んだ。
始めから一切、パスという選択肢は無かったようだった。
パスの選択肢を考えた前田と、シュートしか考えなかった珠理奈。
そのわずかな、一瞬の思考の差が、前田を押しのけたシュートまで導いた。

「点も取れて、パスも出来る。確かにそういう選手は強い。上麻の篠田麻里子みたいに」

菊地が珠理奈を見ながら言った。
ディフェンスを引き付けてパスを出す。
相手がパスを警戒するなら自分が点を取る。
単純な言葉だが、個で目指すべき選手としては理想の形だ。

「でも珠理奈ちゃんにはそれだけの技量が無かった。どっちも中途半端になってしまっていた」
「あいつはまだ1年生だ。今は1対1バカで十分なんだよ」

確かにここまでの試合では珠理奈のパスが有効的な場面もあった。
しかしそれは、1対1で仕掛けても得点が狙える相手の場合だ。
この試合の相手は、前田敦子。
ドライブが通用しない相手を前にした珠理奈はパスを考えすぎていた。
まともにゴールを狙えないうちにパスを狙っても、当然意味を成さない。
そしてそのパスという選択肢が、本来の珠理奈のドライブのキレを奪ってしまう。
悪循環だった。

「止めてやる」
「やれるもんなら」

パスを受けた前田がクロスオーバーで珠理奈を抜き去る。
やはりリズムを読める前田のドライブには対応できない。
シュートが決まってしまう場面。
秋元が早めのヘルプで前田のシュートコースを塞ぐ。

「させるか!」

しかしすでに、前田の手元にボールは無かった。
ゴール下、一瞬だけフリーになった光宗に合わせのパスが出る。
このパスコースが前田には見えている。
宮澤が光宗をチェックするが、そのままゴール下、押し込まれる。

「くそ……!」

珠理奈が唇をかみしめる。
少しも前田を止めることができない自分が不甲斐ない。
オフェンスに戻ろうとしたとき、後ろから肩をポンと叩かれる。

「今のは私と佐江のローテーションが遅かった。ごめん」

十桜のオフェンス、ボールは珠理奈に渡る。
もう一度ドライブでゴールを狙うが、今度の前田は油断が無い。
ゴールに近づく前に抑えられる。
立て直してパスコースを見ると、ハイポストに宮澤が走り込んでくる。

(パターンは分かってる。佐江がハイポなら才加がローポやろ)

宮澤にパスが入った瞬間に増田は宮澤と秋元のコンビのパターンを予測した。
しかし、その増田の不意をつくように宮澤はジャンプシュートを選択した。
十分得意な距離、ボールはリングを打ち抜いた。

「うちらもそろそろ目を覚まさないとね」

帝桜の攻撃はハイポストで光宗がパスを受けた。
ドライブからのロールターンに秋元は何とか反応する。
シュートを狙う光宗をチェックする。

「高さと速さの差は絶対だ。そこじゃチェックにならない」

光宗の手が大きく外側に伸びる。
秋元のチェックが届かない場所からシュートはリリースされ、リングを貫く。
このフックショットが未だ攻略できていない。
十桜のオフェンス、秋元がハイポストでパスを受ける。

「その距離はやらせない」

ターンからのシュートを狙うが光宗の厳しいチェックに合う。
ドリブルで抜こうとしても、反応される。
長い手が伸びて、秋元の手元からボールを弾く。

(しまった……!)

ルーズボールに飛び込んだのは宮澤だった。
指原にボールを渡し、もう一度オフェンスを作り直す。
玲奈がパスを受け取るが、シュートはチェックされ、ドライブも反応される。
後半から山本に1対1で歯が立たない。

「大丈夫、ちょうだい」

その玲奈からパスを繋いだのは宮澤だった。
ハイポストで受け取る。
今度は増田も厳しくシュートチェックする。
ローポストに動いた秋元が見える。
すかさずパスを入れた。

「才加! 勝負!」

ボールを受けた秋元は一度、体を内側へ振る。
光宗が一歩動いたのを見てから、外側へ体を潜り込ませた。

(高さと速さじゃ私は光宗に敵わない……だったら)

まだシュートに行ける距離では無い。
ドリブルで押し込む。
光宗が大きく手を上げてそれを受ける。

(かっこ悪くてもいい……パワーと泥臭さで勝負するしかないだろ!)

秋元がボールを頭上へ上げる。
光宗の手が上へ大きく伸びてくる。
しかし秋元のそれはフェイク。
ボールを振って、ブロックのタイミングを外す。
しびれを切らした光宗の膝がついに伸びた。
それを見て秋元がアタックする。
ボールはリングに押し込まれた。

「ナイス! 才加!」

宮澤がニッと笑顔を見せた。
それに答えるように、秋元も笑った。
2人のハイタッチが、パンッと景気のいい音を鳴らす。
大きな2本の柱が、帝桜の攻撃を待ち構える。

「十桜が勝つには、当たり前だけどもっと相手のオフェンスを止めて、自分のオフェンスが決まる場面を作らなきゃダメですよ。点差があるのに時間は減ってるんだから」
「そろそろ一本止めたいところだね」

渡辺の言葉に菊地が頷いた。
時間は7分を切って13点差。
いくら点を取っても、その分取られ続けている限りは十桜はどんどん苦しくなる。

「そのためにはまず、この光宗薫をどうにかしなくちゃならないですね」

エースの前田に目が移りがちであるが、点数的には光宗も同じくらいの点を取っている。
インサイドの支配力は攻守共に驚異的だった。

「光宗はどう考えてもアウトサイド寄りのセンターなんだから秋元より宮澤がマークした方がいいじゃないの?」
「そしたらもっと外寄りのフォワードの増田は誰が止めるんですか」
「あ、そうか」
「キャプテンが頑張るしかないですよ」

これだけ得点を許すのは、秋元と光宗のタイプの違いである。
ミドルレンジからスピードとテクニックで攻めてくる光宗のプレーには、パワー勝負を得意とする秋元では相性が悪い。
かと言ってここまで自らのオフェンスにおいてパワー勝負で中々得点を奪えなかった点では、秋元に反論の余地は無い。
光宗がハイポストでパスを呼び込む。
足を引いて秋元と向かい合った。

「あんたに私は止められない」
「止める……止めるしかないんだ」

フェイクから光宗がドライブを仕掛けた。
振り回されながらも秋元は何とかついていく。
シュートに踏み切る光宗に被せるように手を伸ばす。

「そのチェックじゃ届かない」

ボールが秋元から離れていく。
外側へ大きく手を伸ばした光宗のフックシュート。
現時点、秋元はこれを止めることが出来なかった。

(ちくしょう……!)

光宗の手元からシュートが放たれようとする。
得点を許していては、点差が縮まらない。
キャプテンとして、これ以上自分が失点するわけにはいかなかった。
精一杯手を伸ばしてチェックしようとしても、ボールは光宗の左手と体によって守られている。
届かない。

「1人で無理ならさ……2人でやるしかないでしょ」
「何……!」

このとき初めて光宗の表情に焦りの色が出た。
秋元のさらに外側、宮澤がこのフックシュートに反応していたのである。
宮澤のチェックが、安全な位置にあった右手のボールを脅かす。
そのまま放たれたシュートが、決まるはずはなかった。
リングに弾かれ、逆サイドに落ちる。
ようやく光宗のフックシュートを止めることに成功する。
しかし、すぐにピンチがやってくる。

(まずい、逆サイフリーだ……!)

光宗に2枚つけば当然1人マークがいない状態になる。
ボールが落ちるゴール下、宮澤のマークの増田がリバウンドに入っていた。
取られれば即失点のゴール下だ。

「間に合わない!」

増田がボールへ飛ぶ。
秋元も宮澤も、失点を覚悟した瞬間だった。
突然、横からもう1人選手が飛び込んでくる。
増田と競り合って、ボールをもぎ取った。

「玲奈!」

リバウンドを玲奈が制した。
上のポジションからの移動がギリギリで間に合った。
肩で息をしつつも、掴んだそのボールは離さない。

「止めた! これはチャンス!」

帝桜のオフェンスを止めて攻守が変わった瞬間、菊地が思わず声を上げた。
相手の攻撃をやっとの思いで止めたのだ。
点を取って点差を縮めたい場面。
ここでまた、オフェンス失敗ではもう十桜の勝ち目は無くなってくる。

「当然、エース対決」

再び珠理奈に注目が集まる。
一度前田から点を奪ったと言っても、あれは半分不意打ち、強引なシュート。
完全に前田を攻略してのシュートでは無い。
この壁を突破することが、今の十桜には、逆転への流れを掴むためには、必要であった。
速い流れから、珠理奈にパスが渡る。

「上手い!」

シュートフェイクからドライブ。
そのキレは前半より遥かに増していた。
勢いよくゴールに向かって踏み切る。
しかし、珠理奈の目の前に回り込んでくる。

「抜ききれてない……!」

シュートに踏み切る直前、珠理奈の手から前田がボールを叩き落す。
運よくアウトオブバウンズになり、十桜にとっては命拾いになる。

「あれでも無理か……ちょっと前田が凄すぎるな」
「珠理奈ちゃん……」

菊地が険しい表情で言った。
渡辺も同様に険しい表情でコートを見つめていた。
試合の中で何度か訪れる『勝負所』。
そのシュートを決められるか止められるかを繰り返して点差はついていく。
前田がいる限り帝桜の壁には傷をつけることすらできない。

「エースの差か。決定的な」

続く
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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Secre

珠理奈ならいけるはず……

玲奈があの状態になれたなら珠理奈だって入れるはずだ!

Re: タイトルなし

> キラさん

コメントありがとうございます。
珠理奈はやってくれるのか。
こうご期待です。
プロフィール

ウロマム

Author:ウロマム
どうも、ウロマムです。
AKB48さんの小説を書いてます。

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