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「スラムダンクはできないけれど」第78話

第78話「やるべきこと」

自信を失っていた。
勝てると思っていたライバルには差をつけられ、目の前の敵には歯が立たない。
もしかすると、今までの短いとはいえ人生、あまりに恵まれていたのかもしれない。
小学生のころからバスケは得意だった。
もちろん思い出せないほど練習した。
努力は積んでいた。
だから、負けなかった。

「いや……無理だ」

高柳の言葉に首を振ってしまった。
こんなに敗北を突き付けられた経験は初めてだったから。
松井珠理奈の人生において。

(悪い事言ったな……)

高柳の顔を見ることも出来ず下を向いた。
すると視界に、誰かの足元が入ってくる。
そのバッシュは、間違いなく高柳の物だ。
顔を上げた。

(明音……?)

心の中でそう言い終えるか終えないうちだった。
突然、左の頬に、鋭い痛みが走る。
衝撃で顔は横を向く。
何が起きたのか、理解できなかった。
痛みで反射的に一瞬怒りも沸いたが、頭が状況に追いつくと同時に収まった。
目線を前へ、そして、目の前に立つ高柳の顔に向ける。
高柳は目に涙をためていた。

「ごめん珠理奈ちゃん、でもやっぱ違うよ。そんなの珠理奈ちゃんじゃない。簡単にエースを譲ってフォローに回るだなんて言うのは珠理奈ちゃんじゃない。もっと自信満々で、皆が驚くようなプレーをドヤ顔でやってのけるのが、松井珠理奈だよ!」

その言葉は、珠理奈の胸に突き刺さった。
驚くほどに、耳から入った音が、体の奥底まで響き渡った。
高柳の語った松井珠理奈は、別に周りの勝手な理想じゃない。
ずっと前から、自分が頭に描いていた、自分の理想像だ。
そんな大事なことを、試合中に言われて気づかされるなんて。
情けなかった。
何をやってるんだと思った。

「ごめん、明音……目が覚めたよ」

珠理奈は立ち上がり、ポンポン、と高柳の頭を撫でた。
そうこなくちゃ、と高柳は笑顔を見せた。
コートに目を移した。
今まで、ぼんやりしていた風景が、急にはっきりと見えた。
見えているようで、見えていなかった、相手の背番号5番も良く見えた。
そしてその5番とマッチアップする佐藤と目が合う。
佐藤は珠理奈に気付くと、安心したような笑顔を浮かべた。

「私を……試合に出してください!」

珠理奈は安西に直訴した。
すぐに答えは返ってきた。

「そう言われるのを待っていました」

佐藤さんとです、と安西は交代の指示を出す。
珠理奈はテーブルオフィシャルズに交代を宣言し、その時を待つ。
来ていたシャツを脱いでいると、北原と大家が立ち上がった。
2人は、珠理奈の手を握って、言った。

「先輩だってのに情けない話だけど……珠理奈、頼んだよ」
「うちらの分まで……交代する亜美菜の分まで……ぶつけて来てくれ」

ギュッと、その言葉の途中、手の握りは強くなった。
自分はベンチで見ていることしかできないのだ。
悔しくないわけがない。
それでも、北原と大家、2人の先輩は、珠理奈を頼り切った。
同じチームの仲間として、珠理奈を送り出してくれる。
2人の言葉に珠理奈が頷くと同時、その時はきた。

「オフェンス! チャージング!」

佐藤が大島からファウルを貰い、タイマーが止まる。
ブザーが鳴った。
珠理奈の方へ、佐藤が駆け寄ってくる。
入れ替わるとき、珠理奈の手を佐藤は握った。
北原と大家がそうしたように。

「珠理奈、あんたがやるんだよ。前田を負かすの。いい?」

珠理奈は1回、頷いた。
言葉は無かったが、その表情を見て佐藤は、安堵の表情で珠理奈の背番号10を押し出した。
ベンチに戻ってきた佐藤を抱きつくようにチームメイトは迎え入れた。

「亜美菜よくやったじゃん! 前田相手にあそこまでやるなんて!」
「まあね。あと1分交代が遅かったらまた点差離れてたよ。……褒められるべきは明音じゃないの?」

そう言って佐藤は、まだ目がうるんでいる高柳を見た。
北原も大家もその言葉に頷いた。
高柳は驚いた様子で自分を指さした。

「え、私ですか?」
「やるじゃん。珠理奈をひっぱたくなんてさ」
「あれには驚いたわ」
「いやいやいや、そんな」

高柳はブンブンと手を振り、首を振り否定した。
まあまあ、と大家はその動きを制した。
先輩3人に凄まれると、観念したように高柳は照れながら言った。

「これでも、珠理奈ちゃんと麻友ちゃんを操ってたガードですから」

ずっと不安の表情で珠理奈を見ていたのは高柳だけではない。
中学時代のチームメイト、渡廊の渡辺麻友も、珠理奈の登場には期待の笑みがこぼれる。

「出てきましたね。珠理奈ちゃん」

十桜ボールで試合の再開。
活躍を見せた佐藤と代わって入ってきた珠理奈に、観客の視線は集まった。
渡辺も菊地も、珠理奈に注目する。

「ベンチのメンバーが最高の形で繋いでくれたことは間違いないけど」
「ここで珠理奈ちゃんがどうにかしなきゃ、流れはまた帝桜に戻る。そうなったらもう……」

十桜は慎重にボールを回した。
珠理奈に回すことは決まっていたが、それでも慎重だった。
この場面で失敗することが、試合の終わりを意味することが分かっていたからだ。
秋元がスクリーンをかけて珠理奈をフリーにする。

「さて、ベンチで休んで何をしてくる」

珠理奈にボールが入る。
前田との1対1。
都立十桜、崖っぷちの突破口。
最後の希望。

「……決める」

単純だった。
ボールを軽く振ってからの外側へのドライブ。
フェイク自体は難しいものでは無かった。
しかしこの試合一番の速さ。

(速い……!)

前田は珠理奈が踏み出した瞬間にその速さを直感した。
それでも珠理奈の呼吸に合わせて体が動く。
リズムは読めている。

(ダメか……!)

十桜メンバーはいよいよ崖から突き落とされる気分になった。
崖っぷちからすでに、足が浮き上がっていた。
あとは真っ逆さまに落ちるだけ。

「まだだ!」

珠理奈の渾身のドライブは前田を抜けていない。
それでも珠理奈はシュートへ踏み切った。
持ち前のフィジカルで前田をわずかに、押しのける。
飛んでしまえば珠理奈は高い。
前田のチェックを受けながら、半分前田に乗っかりながらもシュートを放る。
ボードを使ったシュートが決まった。

「じゅ、珠理奈ちゃん……」

崖っぷちに手が掛かった。
そのシュートが十桜にとってどれだけ大きいものか、ベンチのメンバーの喜びようだけではない、歓声が示していた。

「やったあああ! 決めたああああ!」

絶対に決めなければならないシュート、珠理奈は決めた。
限界ギリギリの試合を、どうにか繋ぎとめた。
ベンチにガッツポーズで珠理奈は答えた。
そして目の前の前田を睨みつける。

「誰がエースだとかゴチャゴチャ考えるのはもう止める。……今、私のやるべきことは1つ。あんたに勝つことだ」

続く
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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Secre

ついに珠理奈が動き出した

勝つことはできるのか…

No title

やっぱりこの小説のなかで

一番好きなキャラクターは、明音です。

78話よんでさらに思いました。

いけ!!珠理奈!!

Re: タイトルなし

> キラさん

コメントありがとうございます。
珠理奈復活お待たせいたしました。

Re: No title

> クルムルさん

コメントありがとうございます。
勝手に名前を使わせてもらっている身ですが、そう言ってもらえると大変嬉しいです。
創作の励みになりました!
私もちゅり好きです。
プロフィール

ウロマム

Author:ウロマム
どうも、ウロマムです。
AKB48さんの小説を書いてます。

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