スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「スラムダンクはできないけれど」第77話

第77話「分かってたよ」

「……大丈夫」

前田はそれだけ言ってコクリと頷いた。

「そっか」

大島の言葉もそれだけだった。
手を叩いて仲間を鼓舞する。
特別な指示は無い。
ここまでと同じ、今まで通りのやり方。
最後に監督の確認を取る。
秋元康が頷いたのを見て、部員を集める。

「よーし。最終ピリオドだ。気合入れろ!」

円陣を組み、掛け声を一つ欠けると、コートに戻った。
スタートと変わらぬ5人。
あくまでも最後まで突き放す姿勢。

「こっからですよ! まだまだ行けます!」

対する十桜のベンチで声を出していたのは、佐藤だった。
佐藤の、第3ピリオドでの活躍、そしてその声で、わずかながらも、十桜メンバーは元気を取り戻していた。
点差が縮まる、という目に見える結果が出ていることも大きい。

「亜美菜の言うとおりだ。まだ行ける」

秋元が改めて声を掛ける。
各々が頷いて、十桜も5人がコートに戻った。
審判からボールが、帝桜の山本に手渡された。
そして、大島がコート内でそのボールを受ける。
10分という第4ピリオドの時間が、決着に向かって減りはじめた。

「9番……やっぱり凄くないか?」

帝桜のオフェンスから始まる第4ピリオド最初のプレー。
パスを受けようとする前田を、佐藤は必死にディフェンスする。
ここまで前田を苦しめる選手。
第4ピリオドになっても続くとなると、観客も無視できない。
何となくで見ていた背番号9番を意識し始める。
そして、15点という点差がまだ勝負が決まっていない点差にすら思えてくる。

「佐藤亜美菜か……思わぬ伏兵だね」

それは大島も、そして今ディフェンスを受けている前田も同じ。
ここまでの選手がいたとは思っていなかった。
しかし、大島は前田にパスを入れる。
インターバルで聞いた前田の確かな言葉―大丈夫。
迷いは無かった。

「でも」

前田がボールを受ける。
それまでベッタリと張り付いていた佐藤のディフェンスが、間合いを取るディフェンスに切り替わる。
自分のリズムが読まれないように。
それでも前田は、動き出す。

「今までいなかったと思う?」

瞬間、前田の鋭いドライブが、佐藤を襲った。
佐藤が警戒していた外側のサイド、スパッと抜き去った。
そのまま、遅れてヘルプに出てきた秋元を見据えながら、超高精度のジャンプシュートを決める。
おおお、とそのドライブのキレとジャンプシュートへ移る滑らかさに歓声が沸く。
それとは別。
今の前田のプレーの本質を理解していた者は、身を乗り出して驚いた。

「い、今の抜かれ方は……!」

渡廊高校の渡辺が思わず声を漏らす。
菊地は大きく頷いた。

「間違いない。リズムを読み切ったドライブだ」

佐藤に反応されていたドライブとはまるで別物。
動くことすら許さずに、相手を抜き去る。
不自然なほど綺麗なドライブ。

「そんな……リズムは読めないはずじゃ!?」

北原が声を上げる。
十桜ベンチメンバーもすぐにそれを理解した。
佐藤は前田相手の対策として、自分のリズムを隠していた。
それは今も、ドライブで抜かれるまでも間違いなく実践していた。
佐藤に突破口を見ていた北原達は、何が何だかわからなかった。

「初めてじゃないんだよ。それをしてきた相手は」

全国大会、そして海外遠征。
今まで対戦してきた数々の強敵を、大島は思い出していた。
その中には、佐藤と同じように、自分のリズムとは違うプレーを敢えてする選手がいたのだ。
すでに、その壁に前田はぶつかっていたのだ。

「『リズムを読める』なんて……そんな目に見えない才能……もし私が持ってても、別に何とも思わないだろうね」

他人より、シュートのセンスがある。
それは、シュートの確率に現れる。
視野が広くてパスが得意。
当然、試合のアシスト記録に現れる。
足が速かったら、50メートル走のタイムは良いはずだ。
しかし、前田のその才能は、目に見えない。
形に残らない。
そんな『なんとなく』なものを強く意識することなんて普通は無い。

「でもあっちゃんは違う。その目に見えない小さな才能を、伸ばそうとした。どんな相手でも扱えるように」

日頃の練習の中でも、積極的に相手のリズムを読もうとする。
前田は、より速く、より精度を高くできるように、訓練したのだった。
海外の猛者相手でも通用する特技だと信じて。
結果、相手が隠そうとも、奥底に見え隠れする潜在的なリズムを読むことが可能になっていた。

「努力の差だ。その程度じゃあっちゃんは負けない」

出来ることは出来る限り何でもやる。
勝つためであれば、どんな努力も惜しまない。
それが、高校最高の選手と呼ばれる所以。

「実際に喰らうとここまできついのか」

抜かれた佐藤は苦笑いで前田の背中を見つめていた。
気付いた時にはすり抜けられているような、異様な感覚。
そして背筋がゾッと凍る。
汗が急に吹き出し、今まで感じていなかった疲れがどっとのしかかる。
『喰らう』と表現してしまうほどのドライブ。

「もう隠しても無駄だよ?」

佐藤へのパスコースを切りながら、前田は言った。
どんなに他の選手のコピーでリズムを変えようとも、もはや通用しない。
それでも、佐藤は前田のマークをなんとか振り切りパスを受け取る。

「だったら、もう自分のリズムで真っ向勝負してやる」

いくら器用でも、リズムを意識しながらでは流石に全てを出し切れない。
ここから何の違和感もない、100パーセント。
佐藤は前田にぶつける。
素早いクロスオーバーからのドライブ。

「君のリズムは読み切った」

しかし佐藤は完全に前田に合わせられた。
全力のドライブも、2歩目を踏み出す前に、ボールに触られる。
前田に弾かれたボールはラインを割った。

「リズムを読まれるってのはこんなに嫌なものなのか。すげえな……ちくしょう」

目の前に立ちはだかる前田が、もはや佐藤には高く分厚い壁にしか見えなかった。
ディフェンスでは、あっさりと抜きさられ、オフェンスではろくにドライブもさせてもらえない。
何をしても無駄、という絶望感が襲い掛かる。
同時に、珠理奈は交代するまでずっとリズムを読まれ続けていたことを思い出した。

「そんな……さっきまであれだけ通用してたのに……亜美菜さん」

今にも泣きそうな表情で高柳は試合を見ていた。
気づけば、持ち前の元気さも、声すらも出ていない。
すぐにそんな自分に気付き、振り払うように左右に首を振り、声を出す。
俯いてばかりいる、珠理奈に声を掛ける。

「珠理奈ちゃん、顔上げてよ。まだ交代するかもしれないんだよ?」

しかし珠理奈は、ゆっくりと首を振った。

「いや……無理だ。交代しなくていい。前田には勝てない」

それは、突然の出来事だった。
高柳は立ち上がり、珠理奈の目の前に立った。
何だ、と珠理奈が顔を上げた瞬間、パンッ、という乾いた音が十桜ベンチに響く。
北原と大家は、流石に試合から目をそらして、唖然とした表情で一部始終を見ている。
コート内では、佐藤だけが、その状況に気付いた。
他の選手も、観客も気づかない中、佐藤はその聞こえるはずのない乾いた音に気付いた。
そして笑う。

「そろそろ限界かな」

自分の言葉通り、チームはもはや突破口を失った。
点差も時間も、限界を超えていると言っても過言では無い状況にもかかわらず、佐藤は笑みを浮かべるのだった。
前田は不思議そうにその表情を見つめていた。
佐藤がさらに続ける。

「……分かってたよ。こんな小細工じゃ、届かないってことは」

その言葉に、前田の眉がピクリと動く。
どういうことだ、と言わんばかりの表情だった。
試合は十桜のボールで再会される。

「私は……ただの時間稼ぎさ。真打登場までの。いや、復活かな」

不意に後方からの声が前田の耳に入る。
それは、秋元のスクリーンを光宗が伝える声だった。
そのスクリーンを使って佐藤は動く。
フリーになったところへパスが入った。

「亜美菜ダメだ! 前田は抜けてる!」

佐藤がシュートを打とうとする直前、秋元が叫ぶ。
自分のスクリーンを簡単にすり抜けていく前田が、秋元には見えていたからだ。
しかし、佐藤はすでにシュートモーションに入っていた。
秋元をかわした前田のチェックが届く。

「リバウンド!」

チェックされながら強引に打った佐藤のシュートの軌道は上に逸れていた。
外れることを確信したリバウンドの声が飛ぶ。
だがしかし。

「なにっ」

変に回転のかかったシュートがボードに当たり、リングに収まった。
それは誰がどう見ても偶然だった。
打った佐藤本人ですら外れると思っていたシュートだった。
それでも2点は2点、ゴールが決まった。

「よっしゃ。決まった」
「たまたまでしょ」
「当たり前じゃん」
「開き直るな」

前田が佐藤を振り切り、パスコースを作る。
大島をマークする指原は、パスを要求する前田の声を聞くと同時に意識を前田に向けた。
前田には何度もやられている。
早い段階のヘルプで止めるしかない。
そのときだった。
目の前から大島が消えた。

「うそ……! パスしない!?」

指原だけではない、誰もが予期せぬプレーだった。
前田か、少なくとも山本、今の状況であればどちらも十分得点が期待できるマッチアップ。
しかし、大島は自らドライブを仕掛けた。
秋元がヘルプに出る。

「やらせるか!」

立ちはだかる秋元の目の前、大島はストップし、秋元を避けるように体を反転させる。
秋元が一歩も動けないうちに、大島は横をすり抜けようとしていた。
そのとき、前田の声が飛んだ。

「優子!」

秋元のすぐ後ろから出てきた佐藤に気付くのが、大島は遅すぎた。
ロールターンは回転して相手をかわすため、視界が切れている時間が長い。
その間に佐藤は正面に回り込んでいた。
2人の体が激突する。

「オフェンス! チャージング!」

秋元に引き起こされながら、よっしゃ、と佐藤は手を叩く。
指原も玲奈も宮澤も駆け寄った。
会場は、あー、と大島のプレーを残念がる大きな歓声と、おお、と佐藤のプレーを褒める小さな声が入り混じった。
十桜ベンチは当然、全員が立ち上がって大喜びだった。

「私じゃないよ」
「え?」

そして、十桜、選手の交代を告げるブザーが鳴り響く。
そこには、背番号10番の選手が確かに立っていた。
佐藤は前田に告げた。

「私じゃない……あんたを倒すのは、彼女だよ」

続く
スポンサーサイト

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

Secre

初コメです

はじめまして!
いつも楽しく読ませて
もらっていますm(__)m
素敵な物語を
ありがとうございます。

とうとうエースの登場ですか!
すごくドキドキします(*^^*)
楽しみです~~♪

Re: 初コメです

> ねぎさん

コメントありがとうございます。
素人の稚拙な文章ですが、楽しんでいただけているなら幸いです。
読んでくださりありがとうございます。
エース登場の次回をこうご期待ください。

遂に珠理奈が動くんですね

Re: タイトルなし

> キラさん

コメントありがとうございます。
ようやくです。
お楽しみにです。

No title


じゅ、じゅ、珠理奈キターーーー


次回が楽しみです。

Re: No title

> クルムルさん

満を持して、になるのでしょうか。
次の更新ご期待ください。
プロフィール

ウロマム

Author:ウロマム
どうも、ウロマムです。
AKB48さんの小説を書いてます。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
検索フォーム
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。