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「スラムダンクはできないけれど」第68話

第68話「前夜2」

「いや……分かってたけどさ……」

騒がしかった直前の雰囲気とは打って変わって、部屋には再生されるビデオの音だけが響いた。
その沈黙に耐え切れず、指原は口を開かざるを得なかった。

「強すぎるっしょこれ……」
「はい。ですからよく研究して弱点や隙を……」
「どこを切っても完璧じゃん! 隙なんて無いですよ、先生!」

テレビに映るのは、生で観戦した帝桜高校対渡廊高校の試合。
あの渡廊高校が一度もリードを奪えずに敗北している。
その光景は何度見ても慣れるはずがなかった。
むしろ、テレビという器材を通して映し出されている方が、淡々としていて不気味さは上だった。

「改めて見ると、やっぱり圧倒的だ……」
「前田と大島、この2人の壁が厚すぎる……あれだけいい試合した渡廊ですら、この2人を完全に崩すには至ってない」

秋元と宮澤が険しい表情で頷いた。
中学時代、増田と梅田を含めた4人でぶつかっても、前田1人にはじき返された。
今度はその前田と同等とされる大島までもが立ちはだかっている。
それは想像を絶していた。

「ハッキリ言います。ただでさえこの相手の強大さに君たちは気後れしている。しかし実際に試合をするとなるとそれどころでは済まない。さらに他の要素が君たちには襲い掛かる」

いつもであれば『それを試合前に言うのか』と突っ込むところだった。
しかしこの時は誰も安西の言葉を止めようとしなかった。
全てを聞いて、受け入れ、克服しなければならないと、全員が直感していた。

「まずは緊張。頭では『ビビるな』そう思っていても心のどこかで『相手は帝桜』という気持ちが残る。普段通りのプレーすら出来ないかもしれない」

いきなり全員が図星だった。
明日戦うのだ、そう考えただけで鼓動が速くなる。
指原に至っては薄く汗まで掻いていた。

「そして会場の雰囲気。今年はいつにもまして帝桜高校はスター揃いで近年稀にみる圧倒的な強さだ。大応援団、業界関係者、ファン、他の高校。どこも見たいのは帝桜高校のスーパープレー。ひとたびその波に飲み込まれれば、君達がその流れを押し返すのは困難だ。そんな中で試合をすることになる。『都立だから』と背中を押してもらえる可能性は少ない」

観戦しているだけで、帝桜の雰囲気には気圧されるほどだった。
それを一点で受けるコート上はどれだけ厳しい雰囲気なのか。
平常心でいることが容易でないのが簡単に想像できる。

「君達にそれを跳ね飛ばす覚悟があるのか……そこまでは問い詰めません。ただ、覚えておいてください。明日はそういう試合なんだと」

安西の強い口調に部員たちは息を呑んだ。
以上、という最後の言葉でその場は解散自由行動となった。
ビデオを見続けるもよし、部屋に戻って寝るもよし、夜風に当たりに行くもよしだ。
各自ばらばらに、散っていった。

3年生の秋元と宮澤は部屋に戻った。
秋元はシューズの手入れを始め、宮澤はベランダに出て夜空を眺めていた。
しばらくお互い黙っていたが、宮澤が先に口を開いた。

「緊張する? 才加。あたしはしてるよ、ガチガチだ」
「私もだよ。ずっと夢に見てきたんだ。帝桜に勝つことを。全国制覇を」

もちろんまだ4回戦。
勝ったら優勝できるとは限らない。
それでも、帝桜に勝つことが全国制覇を引き寄せることに間違いはない。
勝たなきゃ、全国制覇は当然できない。

「長かった……私はさ、何度も心折れかけた」

秋元のその言葉に思わず宮澤は振り向いた。
心が折れる、なんて素振りを秋元は全く見せていなかったからだ。

「部員がどんどん減った時も。全国制覇だって口では言っているけど出場すら見えてこない時も。何回も無理だと思ったよ。それでもさ……ここまで続けられたのは、ここまで一緒だったからだ……佐江が」

自分の名前が出た照れ隠しに宮澤は再び外を向いた。
そんな様子を見て、少し笑みをこぼしながらも、秋元は続ける。

「私は知ってるよ。私と違って佐江は器用でバスケが上手い。私と一緒に来る必要は無かった。色んなとこから推薦あったんでしょ。帝桜からも」

それは事実だった。
のちにスリーポイントまでシュートレンジを広げたように、宮澤は中学時代からセンターだけでなくフォワードの動きも得意だった。
全国でも有名だった前田と試合していることもあり、スカウトの目に留まるのも当然だった。
しかし宮澤は首を大きく振った。

「なーんか勘違いしてるな、それは。私は……才加とバスケがしたいんだよ。推薦なんて関係ないね。才加なんだ。たとえ才加が地球の裏側に行ったって、バスケをやるなら私はついていったよ」
「佐江……」
「インサイドで組むのは才加以外あり得ないっての」

へへ、と宮澤が笑い、秋元もそれにつられて、ふふ、と笑う。
目が合ったまま黙り込む。
沈黙の間、思い出されたのは、お互い、今のチームのことだった。

「私なんかより、褒めるべきはついてきてくれた後輩でしょ」
「あいつらには感謝しなきゃな」
「うちらだけじゃ絶対無理だった。でも指原達や珠理奈達の力で大きく変わった。ここまで来た」
「うん……だからさ、もし、このチームでやるだけやって勝てないなら、私は諦める。きっぱりバスケは諦めて受験勉強だ」

秋元が遠くを見つめながら言った。
『バスケを諦める』なんて言葉が秋元の口から出たのは唐突だったが、不思議と宮澤は取り乱すことが無かった。
笑いながら人差し指、中指、薬指、3本立てる。

「へへ……才加、安心しな。3つだ。インハイ、国体、選抜。うちらは卒業まであと3つタイトルを獲得する。そうすりゃ大学受験の必要なんて無し! 推薦がバンバンくる!」

第一もう受験じゃ私は手遅れだ、と言って宮澤は頭を掻いた。
おい、と秋元に突っ込まれながらも、強い口調で宮澤は言った。

「勝つんでしょ! 明日はその1つ目のタイトルへ向けての勝負どころじゃん」
「もちろん……絶対勝つ」

ニッと秋元に笑いかけ、宮澤がもうひとたび外に目をやると、宿の外の広場には見慣れた人影が3人集まっていた。
1人は頭を抱えている。

「あーあーあー無理無理無理ー。大島さんが相手なんて考えただけでちびっちゃうよお」

ポイントガードである指原の相手は日本代表の大島優子。
間違いなく格上だった。
大家があきれた様子で喝を入れる。

「試合前からそんなにビビッてどうすんじゃい」
「日本代表だよ!? 指原がどう逆立ちしたって勝てるわけないよ」

指原は今にも泣きだしそうだが、北原も続いて喝を入れる。

「そんなこと言ったってどうにもならないよ?」
「そうだけどさー」

しゃがみ込む指原を見て、大家と北原は顔を見合わせる。
息をついて大家が指原を覗き込んだ。

「大体、なんでそれだけビビってんのに、ここまでどうにかしてこれたんだっつう話」
「へ?」

思っていたのとは違う言葉に指原は間抜けな声を上げる。
ビビるな、ではなく、ビビってるのになぜ大丈夫なんだ、という大家。
全然大丈夫じゃない、そう言い返す前に北原が頷いた。

「そうそう。普通逃げ出すでしょ」
「いや逃げ出したいよ、逃げ出したいよ? でもさ……やるしかないじゃんか」

その言葉に再び大家と北原は、顔を見合わせて笑った。
笑うな、と怒る指原の肩を大家がポンと叩き、北原は手を握る。

「それだよ、さしこ」
「あんたは、どう考えてもビビりなんかじゃない。度胸ある。ど根性魂がある。何度も乗り越えてきたでしょ」
「そ、そうかな」

今まで幾度となく突き落とされてきた。
そのたび不屈の精神で這い上がってきた。
何があってもタダでは死なない、それが指原だった。

「りえちゃん……しーちゃん……ありがと。……なんか指原やれる気がしてきたー!」

よおおし、と指原が両手を上げて騒ぐ。
今の今まで泣きそうだった様子はどこかへ飛んで行った。
やれやれ、と大家と北原は首を振った。

ゆっくりとした足取りで夜道を歩いているのは、高柳と珠理奈だった。
街灯は多くは無いが、月夜ということもあり、思いのほか外は明るかった。

「凄い相手だね……帝桜高校」

夜空に先ほど見たばかりの帝桜高校の試合を思い浮かべながら高柳は言った。
珠理奈は頷いた。

「うん……でも、玲奈がいる。明日の主役は玲奈がやる」
「えっ?」

高柳は思わず聞き返した。
それでも私が倒す、そんな言葉を予想していた。
あり得ないはずの言葉が、あまりにも自然に珠理奈の口からこぼれた。
高柳と同様に、夜空を見つめながら、珠理奈は言った。

「多分、明日は相手の前田と大島、そして玲奈しか行けない世界の勝負が絶対あるはずなんだ。私はそれをサポートする役でいい」
「珠理奈ちゃん……いいの?」

聞き間違いではなかった。
目の前の松井珠理奈はエースの座を松井玲奈に譲っている。
どんな心境の変化か、高柳にはそれが深く納得できなかった。
難しい顔をしていると、珠理奈が首を縦に小さく振って答えた。

「いいんだ……全然引っかかる気持ちは無くて、清々しいんだ。ここまで認めさせる奴がいるとは思ってなかった」
「……珠理奈ちゃんがそう言うなら私は信じるよ。絶対勝とうね」
「当然」

珠理奈が差し出した左手のひらに高柳が右手のひらを打ち付ける。
パンッという乾いた音が夜空に吸い込まれていった。

部屋では佐藤と玲奈が、残ってビデオを見ていた。
何度見ても、帝桜そのプレーには飽きることがない。
佐藤が伸びをしながら言った。

「玲奈、寝なくていいの?」
「亜美菜さんこそ寝なくて大丈夫ですか」
「あんたの方が心配だよ。今日の試合、相当疲れてたでしょ」

同じチームの佐藤ですら口を開けて見ていることしか出来なかった、深中戦での逆転劇。
試合終了後の玲奈は、大きく息を切らし、足もフラフラだった。
それは間違いなく、あの爆発力を発揮した代償。

「もう大丈夫です。明日の試合には万全で臨みます」
「それならいいけどさ。ま、私は寝るけど」
「あ、私ももう寝ます」

ちょうど見ていた試合の再生は終わった。
佐藤が立ち上がり、ディスクを取り出し、片づける。
そしてふと、呟いた。

「多分さ、私は、どう逆立ちしても前田敦子に勝てないと思うんだ」
「えっ、い、いや、そんなことは……」
「いや分かる。もうオーラが違うんだよ、私とは」

突然のその言葉に玲奈は何と答えていいか分からず、戸惑った。
佐藤はテレビの電源を消すと、玲奈の目を見た。

「でもさ、あんたと珠理奈は違う。前田や大島に勝てるモノを持ってる。私はそう思うよ」

玲奈はただただ、佐藤の目を見て黙っていることしかできなかった。
佐藤の表現は、自分をほめてくれていることこそ分かるが抽象的であったし、謙虚に否定すべきなのかどうかも判断が難しい。
困った様子の玲奈を見て、佐藤が『ごめん、ごめん』と笑い出した。

「あー何か変なこと言っちゃった。これじゃプレッシャーかけてるだけじゃんね。忘れて忘れて。ね」

空中に浮かぶ文字をかき消すように、佐藤は大袈裟に腕を振った。
そして、明日は頑張ろ、と玲奈の肩を軽く叩き、部屋を出ようとする。
その直前、玲奈は振り向き、佐藤の背中に向かって言った。

「すいません、亜美菜さんの言ったこと完璧には理解できてないかもしれません……でも……任せてください」

その言葉に佐藤は立ち止まり、頷いた。
背中越しでよくは見えなかったが、表情は笑っているようにも見えた。

それぞれがそれぞれの思いを抱きながら、試合前日の夜は更けていった。
そして夜が明け、その日がやってくる。
都立十桜高校、全国制覇に向けての正念場、4回戦帝桜高校戦。
気合十分の表情で、部員たちは会場へと向かって行った。

続く

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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どうも、ウロマムです。
AKB48さんの小説を書いてます。

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