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「スラムダンクはできないけれど」第66話

第66話「エースは」

「勝った……」

スコアボードに刻まれた点数は、78対75。
都立十桜高校が3点上回っていた。
観客の歓声が会場を包むのとは逆に、コートは妙に静かだった。
深中高校の選手は呆然、勝った十桜の選手は顔を見合わせるばかりだった。
ようやく玲奈が、その険しかった表情を緩め、小さくガッツポーズを作った時、宮澤を始めとする十桜選手が喜びの声を上げた。

「私さ、今凄い間抜けな顔してるでしょ。開いた口が塞がらないみたいな」

両選手が向き合い、勝者が宣言され、礼をする中で柏木は正面の珠理奈に言った。

「ホントはそっちにその顔してもらおうと思ったのに。まさか返されるなんて。負けたよ」

珠理奈は何も言わずに柏木に背を向けた。
それを不思議がる柏木の視線を背に、コートを後にする。
部員たちが嬉しそうに玲奈を囲む中、珠理奈は笑えなかった。
嫉妬ではない。
間違いなく試合に勝ったのは嬉しい。
ただそれ以上に、玲奈のプレーによって与えられた衝撃の方が強かった。

「いやーエライもん見せられちゃったなー」

はあ、と篠田麻里子は大きく息をついた。
衝撃の2分間、11得点。
試合が終わってもしばらく誰も動けなかった。

「あんなに出来るなら始めからやればいいのに」
「いや、多分ね、そういうもんじゃないよ、あの爆発は」

玲奈は途中までは完全に岸里に抑えられていた。
手を抜いて油断させていた、という類でないことは明らかだった。

「どういうことですか?」
「集中力の問題だよ。集中するってよく言うけど、口で言うほどそれは簡単じゃない」
「まあ、確かにそうですよね」
「試合中に70パーセントも集中力を高められれば相当いい方だと思う」

藤江は何となくで頷いた。
正直なところ、自分が試合中にどれだけ集中できているかなんて考えたことも無い。
しかし、篠田がしているのはそういうレベルの話だ。

「集中力が増せば、プレーに現れる。今の試合の終盤の柏木とか、袖無学園のにゃろは多分80パーセント以上に集中力が高まってた」
「じゃあさっきの松井玲奈もそれってわけですか?」
「いや……彼女はそれ以上」

止められない、という点では柏木も小嶋も相当だった。
しかし、玲奈のそれはその度合いが違っていた。
狂気すら感じるほどの異常性。

「100パーセントに近い状態だったんじゃないかな……もう相手とボールとゴールしか見えないくらいの」
「そんなのあり得るんですか!?」
「目の前で見せられたじゃん。どんな状態でシュート打っても外さない」

極限まで高まった集中力によって、そのシュートはぶれることなくゴールを打ち抜いていた。
どんなにバランスが悪くても、シュートに必要な動作だけは崩れない。

「いつでもそこに辿り着けるってわけじゃないと思う。追い詰められた状況で、何かが彼女をそこまで引っ張り上げたんじゃないかな」
「ま、麻里子様は出来るんですか? それ」
「私は……そこまで行ったことないよ」

え、と思わず藤江は声を漏らした。
当然だと思っていた。
この人に出来ないことは無いのだと思っていた。
あわよくば自分にだってチャンスはあるとも思っていた。
しかしそれは目の前の、上麻高校のワンマンエースであり日本代表にも名を連ねる篠田麻里子ですら到達できない領域。
その途方も無さに思わず、だ。

「経験してみたいもんだよ、『ゾーンに入る』ってやつ」

篠田が目を向けた先には、次の試合の相手が決定し、席を立ちその場を後にする集団が見える。
見せられた試合に対する言葉が口から出る。

「正直言って驚いた。完全に深中で決まりだと思ってた」

わはは、と笑う大島の言葉に他の部員も頷いた。

「11番やばかったですね」
「ついに佐江と才加と勝負かー。才加の馬鹿力に負けるんやないぞ、薫」
「分かってますよ」

あれやこれやと口々に次の試合に向けての言葉が飛び出す。
いくら王者と言われていようと、目の前であれだけの逆転劇を見せられて興奮しないほど彼女たちは大人ではない。

「いやあ、楽しみだなー、都立十桜。あっちゃんはどう思うよ?」

その中でただ一人、黙っていたのは前田だった。
しかし話を振ってきた大島に向ける目は間違いなく闘志に燃えていた。

「とりあえず、早く帰ってビデオ見ようよ」

前田のその言葉に大島はニヤリと笑みを返し頷いた。
2人だけではない。
それに続く部員全員が次の試合をもう見据えていた。
相手が誰であろうと、関係ない。
王者帝桜高校の試合への準備は確実に進む。

「あ! さっきシカトしてくれたでしょ」

会場の廊下で、涙をすする高城を慰めていた柏木のもとへ訪れたのは、珠理奈だった。
試合後の言葉を無視されたことを一方的に起こる反面、何か悪いことを言ったのではないかと心配していた柏木にとって、珠理奈がもう一度自分の前に現れたことに少しホッとする。
ちゃんと謝れる。

「挑発したりして、ごめん。ちょっと熱くなっちゃって……」
「あんたの言うとおりだ」

試合中の言動を謝る柏木の言葉を遮って、珠理奈は言った。
その少し強い口調に、柏木は思わず言葉が止まる。
珠理奈は続けた。

「あんたが言うとおり、私は何もできなかった……最後、見ていることしかできなかった」
「ちょちょちょちょ、そ、そんな変に自信無くさないでよ」

珠理奈にとって、玲奈のプレーは衝撃だった。
自分が『諦め』にまで染めた柏木を、遥かに凌ぐ。
ライバル、と思っていた玲奈があまりにも遠い世界へと離れていってしまった気分。
圧倒的に自分が置いてかれていることを実感させられた。

「結果として試合に勝ったけど、私は負けてた。救われただけだ、玲奈に」

珠理奈の言葉に、柏木は返す言葉が出てこなかった。
何も言わずに聞くしかなかった。

「試合前からあんたが言ってたとおりだったよ。……エースは私じゃない」

柏木は自分の言葉を後悔した。
元々は軽い挑発で相手が熱くなれば、動きが読みやすくなるという試合の戦略的な理由ただそれだけだった。
しかし、その言葉は思わぬ方向へ、相手を進めようとしている。
プレーを見ていればわかる。
あの戦慄の場面を見るまでは、間違ってもそんな言葉が彼女の口から出るはずがない。
2人の関係はそうであるはず。
それでも、それはそのプライドを粉々に打ち砕くほどの、事件だった。
勝負を交えた柏木にとって聞きたくない言葉が、ついに珠理奈の口からこぼれた。

「エースは……玲奈だ」

コート上ではできなかった握手を交わして珠理奈は立ち去った。
その後ろ姿はひどく寂しげなものだった。

「ゆきりーん、なんだって?」
「真剣な話?」
「いやー、うちらに勝ったからには、帝桜も倒してほしいんだけどな」

どういうこと、と不思議そうな顔で倉持と高城は柏木の顔と珠理奈の後姿を交互に見る。
柏木は苦笑いするしかなかった。

「ちょっとやばいかも……」

続く
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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Secre

まさかのゆきりんの発言で大変なことになるとは予想してなかったΣ(゚д゚lll)

次も頑張って勝ってほしいな(^ ^)

Re: タイトルなし

> キラさん

コメントありがとうございます。
帝桜戦に向けて珠理奈がどうするのかご期待です。
気合入れて書きます。
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ウロマム

Author:ウロマム
どうも、ウロマムです。
AKB48さんの小説を書いてます。

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