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「スラムダンクはできないけれど」第48話

第48話「5分間」

「危なかった……ギリギリか」

安西がホッと息をつく。
篠田の放ったシュートはリングに触れずに手前に落ちた。
同時にブザーが鳴り響く。
72対72。
スコアボードに刻まれた点数が全く同じのまま、試合は40分の規定時間を終了した。

「同点……延長だ!」

40分で決着がつかなかった場合、2分間のインターバルを挟み、5分間の延長戦が行われる。
試合が決するまでそれが繰り返される。

「すごい試合になったねー」
「よく追いついたわ、十桜」
「やっぱただもんじゃないな」

気が付けば手に汗を握って応援していた袖無学園の面々は息を吐いた。
前半だけ見れば延長までもつれ込むなど思っても見ない。
まさかの展開に会場全体が緊張感に包まれている。

「あのシュートに触られるとはね」

ベンチに戻った篠田は悔しそうにつぶやいた。
ラスト10秒の不意打ちで首を落とせる。
そう確信出来るほどにシュートを打つまでは上手くいっていた。
しかし珠理奈の指先は触れたのだ。
下がりながら打ったシュートだったとはいえ、どんどん高さが増しているのは明らかだった。

「決めたかったな」

タオルで汗を拭き、後輩に手渡されたドリンクを口に運んだ。
反対側のベンチでも同じことが行われている。

「よく決めた! 玲奈!」

ポンと秋元が玲奈の肩を叩いた。
そのあとを追うように、宮澤が、指原が、高柳が、玲奈とタッチを交わす。
コクリと頷いて玲奈がそれに答える中、安西は延長に向けて作戦盤を動かしだす。

「いいですか、前半20点差にしろ、ギリギリで追いついたにしろ、この試合は同点で延長なんです。全くこちらが引けを取る理由はありません」

具体的な指示を説明した後、安西は付け加えた。
どんな試合展開であったにしろ、結果は同点である、と。
その言葉に秋元が頷き声を上げた。

「みんな、監督の言うとおりだよ。これは奇跡でも何でもない。実力だ」

秋元の言葉を聞きながら、全員が立ち上がる。
自然と円陣が組まれ、中央に手を集める。

「あと5分……絶対勝とう」

おし、という声と共に気合を入れる。
上麻も同じように円陣を組んでいた。
2つの輪から大きな声が上がり、緊張感は最高潮に達する。
大きな歓声の中、コートに選手10人が揃い、5分間の延長戦が始まった。

「始まりましたね……延長戦」

息を飲んで見つめるのは、雑誌記者の斉藤と田中だった。

「延長、とはいえ試合は40分で一度終わっている。これは仕切り直しの5分間のゲームだと思った方がいいのかもしれない」
「今までの流れとかは全部無しってことですか?」
「そうだ。そして5分という短い時間のゲーム、ということは1点の重みもまるで違う」
「40分が5分……つまり、1点の重みは8倍?」
「極端な話だがな」

そのことを選手も感じているのか、延長戦は中々ゴールが決まらない始まり方になった。
確実に決めようと慎重に攻めれば攻めるほど決まらない。
両チーム無得点で1分が経過したところで、ようやく試合が動く。

「先制したのは上麻―! 篠田が決めた―!」

篠田のドライブからのジャンプシュートで、重かったゴールネットが揺れた。

「1本決めただけで、あと4分を切って2点差。やはり重いですね」
「しかしまあ不思議なもので、一度ゴールが決まると、途端に軽くなることもある」

斉藤の言葉通り、今度はすぐに十桜が決め返した。
秋元がインサイドで、マークの佐藤すみれ、そしてヘルプの篠田にぶつかりながらもゴール下を押し込んだ。
先制されてから早い段階で決め返すことが出来たこと、加えて、秋元はあることに気付いた。

(篠田のプレッシャーが弱かった……?)

佐藤すみれをかわした後、すぐに出てきた篠田麻里子。
延長前の40分であれば、ブロックを喰らうほどのプレッシャーでパスを余儀なくされた。
しかし、この延長では、ヘルプの寄りも遅く、パワーもそれほどでもなかった。

「篠田がシュートを落とした!?」

秋元のチェックを受けながら放った篠田のシュートはリングに嫌われた。
もちろん篠田でも外すことはある。この試合も100パーセントなわけではない。
それでも極端に難しいシュートではない限り決めてくることに慣れていた観客から見れば、それは「意外」に値する。
きっちりとリバウンドを制した十桜は、玲奈、珠理奈、そして宮澤、とパスを回し、そして勝ち越しのシュートを決める。
ヘルプに出てくる篠田を振り回してのゴールだった。

「なんかまりちゃん元気なくなっちゃったね」

オフェンス、ディフェンス共に猛威を振るっていた篠田の動きは、延長戦が始まった途端、明らかに鈍っていた。

「もしかしてガス欠かな?」
「試合終盤まであれだけ動けてた選手が?」

上麻の監督東堂は、それを知っていた。
延長戦から篠田が動けなくなる理由を。

(麻里子は天才なんだ。試合中あれだけ体力が続くのも、もちろん自力もあるが、配分なんだ。40分通して、最後の0秒できっちり体力を使い切る。それが出来る選手はそういない)

攻守共に誰よりも高い運動量が要求される篠田が走り続けられるのは自身の単純な体力だけではなかった。
途中で使いすぎない、かと言って残しすぎない。
燃費のいい使い方が出来るが故であった。

(しかし……それは延長分の体力は考えていない)

つまりは40分が終わってしまえば、体力は空になる。
最後、強引にでも延長になることを防ぎたかった理由だった。

「ギリギリなのはお互い様でしょ!」

篠田がドライブからレイアップを狙うが、そのシュートは外れた。
1枚目を突破できても、2枚目、3枚目を強引に突破するだけの体力は無かった。

「篠田が1人で決めてくる。ついさっきまではいくらでも見られたシーンだったが、もう厳しいのか」

十桜の攻撃は、珠理奈がボールを受けた。
篠田との1対1、一瞬ボールを左に振ってから、鋭い右ドライブを仕掛けた。
反応されていない。
そして懐に飛び込んだ、と思った瞬間に、篠田は視界から消えた。
ゴール下の佐藤すみれをかわして、バックシュートを放り込む。
振り向くとそこには、尻餅をついた篠田がいた。

(麻里子……もう足をつってるのか!?)

いち早く篠田の異変に気付いた東堂が交代の指示を出そうとする。
しかしそれは制止された。
すぐに立ち上がった篠田本人によって。

「大丈夫ですよ。ちょっと滑ってコケただけです」

そう言って笑顔を作り、足を曲げ伸ばしすると、試合に戻っていった。

(嘘だ……今の転び方は絶対つってる)

何事も無かったかのようにオフェンスに参加する篠田をマークしながら珠理奈は確信していた。
間違いなく運動量は落ちているし、表情にも余裕がない。

(このチャンスを逃すわけにはいかない!)

激しく篠田にプレッシャーをかけ、パスコースを与えない。
上麻は他の選手で攻めることを余儀なくされた。

(秋元才加……高すぎでしょ……!)

佐藤すみれがフェイドアウェイのシュートを放つ。
しかしそれは秋元のチェックによって無理矢理打たされたシュート。
本来のシュートでは無かった。

「落ちるよ! リバウンド!」

スクリーンアウトをしながら振り向いた秋元が見た光景は衝撃だった。
それはあまりに高い。
ゴール下、誰よりも高く飛びぬけたリバウンドを見せるのは、篠田麻里子だった。
そのままリバウンドシュートを押し込む。

「まだ終わらないよ……もっと潰す気で来い」

試合は一進一退の攻防が続いた。
4点差が2点差になっては、再び4点差。
時間は刻々と過ぎていった。

(足をつってるはずなのに……執念すら感じる)

もはやファウルも関係なしにゴール下でもブロックをかます篠田に十桜は押されつつあった。
点数にはアドバンテージがあろうとも、心に余裕はない。

「ちょっとたかみな、十桜足止まってんじゃん」
「篠田以外のマッチアップで攻めればいい……それすらも篠田がさせないんだ」

どこから攻めても篠田を避けられない。
そして外せば、その2点の差を埋められるというプレッシャーが襲う。
インサイド秋元から宮澤、篠田の位置を見ながら玲奈へのパス。
ミドルシュートを狙う。

「にょおおおおおおお!」

シュートを決められてしまえば、もう後がない。
藤江が激しいチェックを仕掛けた。
指先がボールに当たる。
シュートはリングに弾かれた。

「リバウンド!」

篠田の声が響く。
残りは30秒。
リバウンドを取れば、追いつくだけの時間が残る。
しかしその刹那。

(な……なんでもうそこにいる……!)

篠田が気付いた時、もう珠理奈は篠田の内側にいた。
足も重たい、集中力も切れてくる。
そのコンディションの中で、珠理奈は誰よりも早くリバウンドに飛び込んでいた。
リードしている、速攻のリスクを背負う必要は無い、そんな考えは無かった。

2人が飛び上がる。
内側に入られたとはいえ、高さで勝るのは篠田……のはずだった。
飛び上がると同時に、篠田は絶望感に襲われた。

(ここに来て……足が……!)

ボールを引き寄せたのは、珠理奈だった。
ゴール下、必死のディフェンスに囲まれる中、珠理奈は外を向く。
ミドルレンジで待ち構えていたのは、高柳だった。

「明音!」

珠理奈からのパスをしっかりと受け止め、ゆっくりとシュートは放たれた。
綺麗な弧を描き、誰もが決まったと思う。
そしてその通りに……決まる。
大歓声に包まれる中、ガッツポーズで喜ぶ高柳と他の4人を、篠田は呆然と見つめていた。

「悔しいな」

試合はそのまま4点差で延長の5分を終えた。
日本代表を擁するシード校が、初出場の公立高校に敗れる。
会場には衝撃が走った。

最後の整列、足をひきずっていたのは、篠田では無く珠理奈だった。
決定打となったシュートのリバウンドで珠理奈の足はつっていた。
高柳に支えられながら、礼を済ませる。

「ギリギリでした。あと1分試合が長かったらもう勝てなかった」
「結果は結果でしょ。十桜の勝ちだよ」

挨拶を済ませ、コートを後にしながらも、篠田は決して足を引きずる素振りを見せない。
それが3年生としての意地だった。
しかし不意に、足から力が抜けた。
大きくよろける身体を支えたのは、号泣する後輩だった。
藤江に小林に前田亜美に佐藤すみれ。

「あたし達何もできなくて……すいませんっ!」
「なんであんた達がそんなに泣いてんの……まだ次があるでしょ……」

試合に出た者、出られなかった者、活躍した者、しなかった者。
冬のリベンジを誓って全員が泣いた。
その様子だけ見れば、上麻高校をワンマンチームと思う者は存在しないだろう。

「か、勝ったあー。延長とか疲れたー」
「さしこは半分しか出てないだろ」
「見てる方も疲れるんですよ、宮澤さん」
「ま、今の試合のMVPはちゅりかな。次からスタメンかも」
「ええっ! マジですか!?」

控室、緊張の糸が切れた十桜の部員たちの口は軽い。
延長までもつれ込む激闘を制した達成感、そしてその相手はシード校。
疲労も凄まじかったが、それ以上に嬉しい。
珠里奈は足がつっているのも忘れて、笑顔になっていた。

「盛り上がってるとこ悪いけど、もう一回アリーナ行くよ」

遅れて部屋に入ってきた秋元が声を掛ける。
不満の声を上げたのは宮澤だった。

「えー。もう立ち上がるのもだるいんだけど、何で?」
「次の試合、絶対見ておかないと」
「次……そうか!」

秋元の言葉に、宮澤を含む全員が立ち上がった。
都立十桜対上麻の後の試合。
見逃すわけにはいかなかった。

『渡廊高校対帝桜高校』

続く

記念すべき(?)48話。
長いです、ホントこんなに長くするつもりは無かったです。
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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Secre

更新お疲れ様でした、

まりこさまの意地見せてもらいました!

Re: タイトルなし

> あおやぎさん

コメントありがとうございます。
駆け足になりましたが書きたいことは書けたと思います。
プロフィール

ウロマム

Author:ウロマム
どうも、ウロマムです。
AKB48さんの小説を書いてます。

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