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「スラムダンクはできないけれど」第41話

第41話「まだ分からない」

「いやー、18点。離れたねー。うん。どう思いますか、たかみな選手」
峯岸はわざとらしく、インタビュアーのように高橋にマイクを向ける仕草をする。
特にそれに突っ込むことも無く、高橋は真面目に答えた。
「十桜は第2ピリオド途中から糸が切れたように見えたね。篠田がパスを回し始めたころくらいかな」

観客席の一番上段、大中小と3人並んで、試合を見つめるは、袖無学園の3年生3人組。
リバウンドのボールをスティールした高橋、逆転のシュートを決めた峯岸。
そして、最後まで十桜を追い詰める原動力となった3点プレーを決めたスロースターター小嶋。

「にゃんにゃんは……どうよこの試合?」
「まりちゃんがあんなに上手いとは思ってなかった」
「あれ、知り合いなの?」
「小学校だけね。昔は私の方が上手かったのにー」

最終的には1点差だったとはいえ、小嶋のエンジンがかかる前の前半だけ見れば勝てる気がしなかった相手。
その十桜が大きく引き離される試合展開。
袖無学園の選手にとってのショックも大きい。

「上麻は良いバスケしてるよ。篠田以外がきっちり仕事分かってる」
「外はドフリーで打たせればある程度決めるしねー。かと言って中の2枚をフリーにするわけにもいかない」
「そりゃ篠田が何人分もの働きをするんだから当たり前なわけだけど、その当たり前がちゃんとチームの強さに表れてる」

高橋と峯岸が冷静に試合を分析する隣で、小嶋は不機嫌そうに唇を尖らせた。
負かされたチームの苦戦に、黙って見ていることしかできない歯がゆさを感じているようにも見える。

「このままボロ負けってことは無いと思うんだけどなあ」

その小嶋の一言に、峯岸がすぐに反応した。

「いや、私もこのまま終わるとは思ってないよ」
「みいちゃんも? やっぱりそう思う?」
「私もだよ」

重ねるように高橋も頷いた。

「簡単に終わるチームじゃない。あの底力は半端じゃなかった。おそらく同じことを思ってるチームがもう1チームある」


アリーナの外の広場。
水分を取り、ストレッチをして最終調整をするのは、十桜でも上麻でもない。

「42対24。18点差で上麻です」

試合の経過の報告に戻ってきた渡辺の言葉に全員が驚きを隠せない。
1回戦を圧勝した渡廊高校は次の試合に向けてアップをしているところであった。

「えー、18点? これで十桜終わり? そんな強いの? 上麻って」
「てか42点って。取られすぎでしょ」

仲川と小森が不満そうな声を上げた。
確かに相手は、日本代表候補を擁する強豪チームであるが、十桜は東京代表である。
全国でもレベルが高いとされる東京の第1代表、譲ったのは他でもない自分たち。

「篠田麻里子に手も足も出てないですね。やっぱり凄いですよ、日本代表候補は」
渡辺も篠田には素直に感心していた。
手も足も出ない、というのはマッチアップする松井珠理奈だけに向けた言葉ではなく、十桜というチーム全体が篠田を止められないという意味。
リベンジを果たしたい相手が負けるのは気に入らないが、認めるしかない。

「いや、まだ分かんないよ」

シューズの紐を結びなおしながら、菊地が言った。

「私が思う限り、十桜にはとんでもない選手がいるからね」
誰のことを言っているのか分からずに顔をしかめる他のメンバーを見て、言葉を付け加える。
「うちらも最後までやられたっしょ?」
その言葉で1人の選手の顔が浮かぶ。
渡辺は悔しそうに顔をしかめた。
「そこまで評価しちゃいます?」
「マッチアップしなきゃ分かんないよ、あの恐ろしさは」


ハーフタイムが終わり、選手がコートに戻ってくる。
18点差が刻まれたスコアシートを見る田中と斉藤の表情は険しい。

「前半でここまで離れるとは……何か策は無いんですかね?」
「十桜はもっとはっきりと篠田を止める意志を示さないとダメだな。ゾーンディフェンスとか。松井珠理奈がフェイスガードでもいい」
「まあ、第3ピリオドから何かやってくるとは思うんですけどね」

試合は十桜ボールで再開した。
ボールを運ぶのは、高柳だった。

「ガードが指原と代わりましたよ。何か意図はあるんですかね」
「別に前半、指原が悪かったようには見えない。体力的に休ませたいだけなのか? いきなりの交代は危ない気がするが……」

斉藤の懸念通り、高柳から秋元への山なりのパスが、篠田の驚異的な高さによってカットされた。
そのまま、藤江と篠田のツーメン。
高柳が必死で戻るが、2対1である。

「後ろ、オッケーだよ!」

その高柳の後ろ、猛スピードで戻ってくるのは珠理奈だ。
(サンキュー、珠理奈ちゃん)
高柳が藤江のシュートを、珠理奈が篠田へのパスコースをチェックする。

(えっ? なにそれ、シュート?)

藤江がフワリとボールを投げるのを高柳はチェックできなかった。
ストップもせず、モーションもあまりに速い。
適当に投げたシュートのように思えた。
振り向いた高柳からは、その高いボールに反応する珠理奈が見える。
伸ばす手はボールにわずかに届かない。
そのさらに後ろ。
飛び上がっているのは篠田だった。

(まさか……パス?)

良いパスだった。
空中でボールをキャッチした篠田は、あろうことかそのままシュートに移行する。
腕をクッションのように軽く曲げ、すぐにボールをリリースする。
ボールの軌道だけ見れば、簡単なゴール下のボードを使ったバンクシュート。
しかし驚くべきことに、その全ては空中で行われた。
キャッチしてからシュートを決めるまで、篠田の足は一度もコートに触れることがなかった。

「アリウープ! もはや女子じゃねえぞ!」

第3ピリオド開始直後、アリーナは大歓声に包まれた。
女子のアリウープというビックプレー。
それは、キャッチをして一旦着地をしない分、速くシュートを打てるというだけではない。

「これで20点差! ハーフタイムを挟んでもこの勢い! 上麻強い!」

チームメイトの勢い、会場の雰囲気。
敵も味方も会場も、ついに篠田麻里子は、全てを支配しようとしていた。

「明音、焦んなくてもいいよ」
「うん、大丈夫。1本落ち着いていこう、珠理奈ちゃん」

点差、それだけでなく会場の雰囲気から見ても、これまでにないほどの大ピンチであるが、安西はタイムアウトを取らなかった。
全てはハーフタイムのミーティングで伝えていた。
落ち着き払った様子で、試合を見守る。

「高柳さんを入れたのは、指原さんを休ませるためだけではありません。もう1つ理由があります。分かります? 指原さん」
「やっぱ上手いからですかね」
ベンチで休む指原の答えを、安西は笑う。
「随分、漠然とした答えですね。技術的な面では彼女はまだまだですよ。安心してください」

中学全国出場の経験の通り、同世代では高いレベルの選手であるが、広い高校バスケの世界では所詮1年生。
技術で指原より優っている要素は、実際ほとんどない。

「試合をしていて、パスが出せそうで出せない、そんな場面が多かったんじゃないですか?」
「そうですね……確かに相手はかなり広く守ってるように見えましたからね。意識的にやってるのかは分かんないっすけど」
テレビを見ていて、レベルの高い試合でも、素人がフリーだと分かるような場面でパスが出ないことがある。
その原因は視点の違い。
テレビカメラの高い視点からの映像では空いてる場所が明白であるが、実際にコートで戦っている選手は違う。
相手と同じ視点で、限られた視野を使って試合をする。
『フリーには見えない』と思わせるだけで、フリーだろうがフリーで無かろうが、オフェンスはパスが出来ないのだ。
上麻のディフェンスは篠田も含め、その心理をうまくついた効率的なディフェンスであった。
「明音ならそれをどうにかできるんですか?」
「多分、です」
最後の最後で自信を無いセリフを吐く安西にぽかんと口を開ける指原をよそに、試合は進む。

(さっきの篠田の高さには驚いちゃったな。でも、もうそんなミスはしない)

ドリブルでボールを右へ左へと動かしながら、それに合わせて動く、相手、味方をよく見る。
わずかに空いたパスコースへ、速いパスを出す。
誰もチェックできない、ぽっかりと空いた穴が突然浮き出てくる。

「これですよ! 絶対あるはずなんです、埋め切れない穴が。彼女は距離感をイメージするのが得意みたいですから」
「へえ。すごいっすね」
「あとおまけにもう1つあります。高柳さんが入ることによって変わること」

その厳しいパスに合わせたのは珠理奈。
完璧なタイミングで受け取ったボールはぴったりと手に収まり、そのままシュートへ移行できる。

「珠理奈さんとのコンビ。中学からの阿吽の呼吸は飛びぬけてますよ」

篠田も、他の選手もチェックできずに、珠理奈のミドルシュートは決まった。

「ナイスパス! 明音!」
「ナイッシュ! 珠理奈ちゃん!」

ハイタッチをかわしてディフェンスに戻る後姿を見ながら、篠田は焦る。
(パス1本で失点したのはこれが初めてかな)
ここまで複雑なパスワークでこそ崩されてきたが、簡単な失点は許すことがなかった。
たったパス1本でシュートを打たれる、という失点はこの試合初めてだった。

(明音は……平面からの視点をそのまま俯瞰の視点でイメージできる。まるで鳥のように上からの視点でコートをイメージできる)

その特技は、生まれ持った才能なのか、それとも、鳥が好き、という性格がもたらしたものなのかは分からない。
とにかく彼女にはゾーンディフェンス特有の穴が見えている。
珠理奈は中学時代、いつかの試合の前に高柳が張り切って言っていたことを思い出していた。

「鷹のようにもっともっと強くなれ。鷹柳になれ!」

同時に、あれはどういうことだったのだろう、と考え直そうともしていた。

続く

間が空いてしまって申し訳ないです。
選挙の感想も書きたいところですが、また今度にします。
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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Secre

更新お疲れ様です!

鷹!
イーグルアイですねw

いつか活躍を期待してましたがここでとは流石です!

Re: タイトルなし

> あおやぎさん

コメントありがとうございます。
某バスケ漫画で言うのであれば、鷹なので、ホークアイですよ。
ただちゅりさんの場合はディフェンスを見てのイメージなので、真後ろが見える、みたいな技では無いのであしからずです。
せっかくいるので、控えの選手は活躍させたいところですが、中々上手くいかないですね。
プロフィール

ウロマム

Author:ウロマム
どうも、ウロマムです。
AKB48さんの小説を書いてます。

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