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「スラムダンクはできないけれど」第34話

第34話「スロースターター」

その試合を見守る誰もが、手に汗を握っていた。
結末はどうなるのか、気にになって仕方がなかった。
タイマーが0を示すときは、刻々と迫ってくる。

「残りは1分!」
会場のボルテージは上がっていく。
しかし同時に不思議な感覚に陥る。

「……でも、第3ピリオドですよね?」
「間違いない」
田中も斉藤も何度もスコアシートやボードの表示を確認した。
間違いなく今は第3ピリオド終盤である。
このピリオドで決着するわけではない。

「しかし……なんなんだ……この雰囲気は……!」

突き放したい十桜と食らいつきたい袖無。
コートから観客席へと伝わってくる両者の気迫は、第4ピリオドのそれと違いが無い。
ポジション、ルーズボールを巡って体は激しくぶつかり合い、得点のたびに聞こえてくる声は必死そのもの。
1点1点が試合を決定づけるような盛り上がり方をしている。

(当然でしょうね……なんせ指示は『死ぬ気で』なんですから)

第3ピリオド頭からのオールコートゾーンプレスの指示を出したのは当然ながら安西である。
その指示に驚く選手たちに、さらに発破をかけるように言葉を繋げた。
『死ぬ気で突き放して来い』と。

作戦の意図は選手には伝えられていない。
それでも、安西がそこまで言う、ということがどれだけのことか選手はよく分かっていた。
本当に『死ぬ気で』突き放さなければ、何かが起こる。
安西には何かが見えている。
監督の言葉を信じて、十桜ファイブは必死でペースを上げた。

対する袖無も、十桜のペースアップに置いていかれることなく食いついた。
それはやはり高橋の力が大きい。
事前に監督河内からこの十桜のペースアップは聞いていたとはいえ、見事にその速いペースについていけるようにシフトしたのだ。

お互いが考えていた、感じていた。
突き放さなければ、ついていかなければ、負けると。
その思いが客席に伝わり、まるで第4ピリオドを見ているような雰囲気が生まれた。

第3ピリオド最後のボールは袖無にあった。
残り数十秒で繰り出したプレーは、ここに来て初めてのパターン。
峯岸にスクリーンを貰った小嶋が抜け出し、高橋からパスを受けてミドルシュートという、見事な3人の連携プレー。
ブザービータ―でシュートが決まり、白熱の第3ピリオドが終了した。

「第3ピリオド終了で13点差か……ただ、僕にはどういう流れだったのか全然分かりませんでしたよ」
突然勝負を仕掛けた十桜、そして試合終了を思わせるような両者の熱気。
少なくとも、『単純』な試合展開ではない。
「俺もすべてを把握できたわけではないが……もしかすると……もしかするとだが、この試合はある1人の選手を中心に動いているのかもしれない」
「1人の選手?」

5人全員が息を切らしてベンチに腰を落とす。
結局第3ピリオドは最初から最後までオールコートでのディフェンスだった。
体力の消耗は避けられない。

(13点差……目標20点で少なくとも15点差ってところが理想だったのですが、それでも2点足りませんか……)
第3ピリオドの内容は、ほとんど安西の頭にあったものが再現された。
十桜のディフェンス力、そして相手がこちらのペースアップを読んでいることも分かっていた。
ただ1つわずかに予想を上回ったのが、袖無学園の粘り。
2点分、読みが外れた。
それでも、もうやるべきことは限られている。

「ここまで来たらもうやるしかないですよ。ディフェンスはハーフマンツーに戻して。この点差守り切りましょう!」
「はいっ!」

安西の喝に応えるように、珠理奈達は勢いよくベンチを立ち上がり、ポジションにつく。
同様に反対側から出てくる選手とコート内で混じり合う。
雰囲気だけとはいえ、第3ピリオドで一度終わってしまったような試合。
観客にとっては未知の第4ピリオドが始まろうとしている。

無数の観客の一角、黒字に緑ラインの入ったのジャージを着た集団がある。
その集団の中の1人の少女はふーむ、と息をつきながら隣の選手に話しかけた。

「この点差……こりゃ次の相手は都立十桜で決まりですかね?」
「いや……まだにゃろが起きてない。まだ試合は分からない」

そう言ってコートを真剣に見つめる少女は、その集団の中でも一際身長が高い。
茶髪でショートカットの髪型が、さらに目立つ。

「随分あの小嶋って選手を贔屓してるんですね」
「だって可愛いから」

試合は十桜のボールで再開した。
宮澤のドライブから秋元へのパス。
立ちはだかる若松を押し込んで、得点を奪う。

「4ピリ開幕15点差―! これはもう決まりか!?」

第4ピリオドが始まってすぐに、易々と得点される。
流れとしては、点差が開く一方、としか表現できない。
都立十桜の攻撃力は、全国でも目を見張るものがあった。

「このままじゃ……負けちゃう」

歓声の中、オフェンスのポジションにつく小嶋が小さく呟いたのを、宮澤は聞き逃さなかった。
今まで口から発せられていた、騒がしい言葉とは違う。
そして、パスを受けて振り向いた小嶋と、目が合う。
その瞬間に、小嶋は宮澤を抜き去った。

(嘘だろ……)
レイアップを決めてディフェンスに戻る小嶋の後姿を見ながら、宮澤は動揺した。
それは、抜かれた自分と、抜いた小嶋、両方に対する動揺。
小嶋と目が合った瞬間に起きたことだった。
間違いなく、宮澤は腰が引けたのだ。
そのあまりに鋭い小嶋の眼光に。
(目が合っただけで……ビビっちまった)

そんな小嶋の変化に宮澤以外は気付かない中、玲奈がミドルシュートを狙う。
峯岸が厳しいチェックを見せる。
ボールがわずかに指先に触れた。
外れたシュートのリバウンドを小嶋が奪う。

「ナイスリバン! にゃんにゃん!」

ボールを高橋に預け、小嶋は前へ走る。
逆サイドを走っていた峯岸がボールを受け取り、ドライブからジャンプシュートの体制をとる。
しかし先ほどのお返しとばかりの玲奈の厳しいチェックを受け、シュートはリングに弾かれる。
ゴール下のリバウンド争い。
一番にボールに飛び込み、制したのは小嶋だった。
そのままゴール下シュートを沈める。

「小嶋がリバウンドに積極的に絡みだしましたね」
「リバウンドはチームに勢いをつけるからな」

それでもすぐに十桜は、今度は珠理奈が、ドライブからレイアップを放り込む。
そのスピードに誰もついていけない。

「うーん。2点ずつじゃ追いつかないね」

小嶋はゴール下まで走り込み、センター若松を壁にして、宮澤を引きはがす。
フリーで放ったスリーポイントはリングに吸い込まれる。

「うおおお! 6番スリーポイント! もう3連続得点か!?」

突然視界に入りだした背番号6に、観客も盛り上がる。
前半はオフェンスどころか、ディフェンスで穴にすらなっていた選手だった。
そんな選手が急に得点に絡みだしたとなれば、期待も膨らむ。
小嶋の活躍はオフェンスだけにとどまらなかった。

「おりゃ!」

音羽を抜き去った珠理奈のシュートを叩き落す。
ここまで珠理奈のスピードとフィジカルに誰も対応できなかった袖無にとっては大きなブロックだった。
ボールを奪った袖無の攻撃は、またも同じパターン。
若松が宮澤にスクリーンをかけ、小嶋がゴール下から駆け上がる。
(またスリーなんてやらせるか!)
宮澤はなんとかスクリーンをかわし、慌ててチェックする。
しかし、次の瞬間には小嶋に抜かれる。
(フェイクかよ!)
ゴール下で立ちはだかる秋元をかわして、レイアップ。

「小嶋陽菜が凄すぎる! どうなってるんだ!?」
「やはり、第3ピリオドの十桜の動きはこれを見越していたのかもしれないな」
「これって……小嶋陽菜のことですか?」
「そうだ。十桜の監督はおそらく早い段階でアベレージ20点の謎に気付いたのかもしれない」

第3ピリオドのプレスの意図を理解したのは、田中と斉藤だけではない。
ベンチで手に汗を握るメンバーもようやく理解したところであった。

「やっぱり小嶋は平均20点取るんだよ……こっから」
そう呟いた佐藤の顔は深刻だった。
「それに追いつかれないための、プレスだったんだ」
前半の動きが平均20得点の選手なのか、最後に宮澤に確認した上での動き。
後半、もしくはもっと遅い第4ピリオドで一気に得点を稼いでくるのであれば、早い段階で勝負を仕掛ける必要があった。

「ホントにこんなデータ通りなんて……」
渡辺が小さな呟きに、菊地は反応する。
「なに、麻友は知ってたの? こうなるのを」
「まあ大体ですけど……データ集めるの大好きなんで」
「で、そのデータってのは?」
「見たままですよ。平均20得点のうちほとんどは、第4ピリオドなんです」
試合が後半になればなるほど調子を上げる。
それが小嶋陽菜だった。
「徐々に得点力が上がってくわけね……」
「いや……」
渡辺は菊地の言い直しを否定した。
「徐々になんてもんじゃないです。あの人の攻撃力は、加速度的に上がりますよ」

「初めはそんな才能にまるで気付かなかったものだ」
その高い身長を買って、河内は小嶋を1年生からベンチに座らせていたが、試合で大した結果を出すことは無かった。
しかしある練習試合、けが人の代わりに小嶋陽菜をフルタイムで出場させたときに、それに気づいた。
誰も止められない攻撃力、コートを支配する守備力、終盤になればなるほど小嶋の力は発揮される。
残念なことにそれは、毎試合と言うわけでは無かった。
エンジンがかからずに終わってしまう試合も多々あった。
小嶋より安定感のある選手はいくらでもいる。
チームを勝たせたい監督の立場ならば普通はその安定感を優先するのが多くであろう。
河内もそうであった。
小嶋の力で後半に追いつけばいい、なんて作戦は選択したくない。
しかしそんな河内の考えを、試合終盤の小嶋は一蹴してしまったのだ。

「あれを一度見てしまったら、使わずにはいられない。たとえ博打になっても」

第4ピリオド、残りは5分。
小嶋陽菜の調子は上がり続ける。

続く

色々と忙しく、更新が遅くなってしまいました。
文章量は多めなのでお許しください。
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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Secre

更新お疲れ様です!


にゃんにゃんが覚醒しましたね!

最後この勢いを誰がとめるのかそれとも止められず………なのか更新楽しみにしてます!

あまり無理せず更新なさってください!

Re: タイトルなし

> あおやぎさん

コメントありがとうございます。
ここまでほぼ空気の小嶋さんだったので、この展開はバレていましたかね。
誰が止めるのか、楽しみにしていてください。
プロフィール

ウロマム

Author:ウロマム
どうも、ウロマムです。
AKB48さんの小説を書いてます。

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