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「スラムダンクはできないけれど」第26話

第26話「決着」

1点差。
余りに重い数字。
ついさっきまではその1点差を追っていたはずが、気づけば逆に追われている。
残り時間はわずか15秒。
それでも1点。
まさに「あっ」と言う間に決まってしまう点。

残り時間が24秒を切っている、ということはつまり、キープに徹すればマイボールのまま試合を終えることができる。
しかしそのたった15秒のキープが、何よりも難しい。
安全に確実にプレーしようと思えば思うほど、プレッシャーは重くのしかかる。

渡廊のディフェンスは1-2-1-1のオールコートゾーンプレス。
基本的には、ボールが入ったところにダブルチームをかけ、苦し紛れのパスを狙う。
指原から珠理奈にボールが入る。
すぐにダブルチーム、平嶋、菊地が迫ってくる。
無理はせず、落ち着いて次のねらい目、つまり指原に戻すか、挙がってくる宮澤、秋元、逆サイドから切れ込んでくる玲奈にパスをすれば問題ない。
当然自分に2人ディフェンスが付いている分、相手は3人で4人を守ることになる。
相手に読み切られたり、極端にパスが悪くなければ、運べる。

しかし、このときの珠理奈にパスコースは無かった。
それは、渡辺麻友の存在。
真ん中のポジションで、珠理奈からパスが出るのを待っている。
足元へのパスをカット、神がかったシュート、そして珠理奈を見据える鋭い目。
その姿は珠理奈にとってもはや、見えないオーラとでも表現すべきものが見えるほどなのかもしれない。
どこにパスを出しても、今の彼女を欺くことは不可能ではないか。
そう判断した珠理奈はあろうことかドライブに移行する。

ダブルチームを前にドライブ。
無謀、としか言いようがない。
1点差、引っかけられターンオーバーになれば、逆転はほぼ確実。
冷静になって考えればどう考えても判断ミス。
チームを危険に晒す、戦犯。
それでも行く。
一種の興奮状態。
今の珠理奈には何も考えられなかった。

外側に菊地、内側に平嶋。
一気にスピードを上げた珠理奈が、外側に突っ込む。
菊地がコースを塞ぎ、その内側を平嶋が塞ぐ。
珠理奈は急停止、外側の足の踏ん張りを効かせて、鋭く内側にクロスオーバー。
その幅の広さは驚異的。
ディフェンス2人分を丸ごとかわすような広さ。
慌てて平嶋がコースに飛び出す。
その瞬間。
その動きを読んでいたのか、わずかに空いた2人の間。
珠理奈は姿勢を低くして飛び込んだ。
恐ろしいほどの瞬発力。
平嶋の右脇、菊地の左脇を珠理奈が抜けていく。

(ファウル……!)
その言葉が平嶋の頭に浮かんだ時にはもう遅かった。
珠理奈はそこにいない。
もうすでに数メートル先を行く。
鮮やかにダブルチームを抜き去ってみせた。

珠理奈の視界には、渡辺、小森。
それでも止まらない。
仲川が後ろから追ってきている気配も感じている。
止まったら捕まる。
呼吸している暇もない。

ダブルチームを抜き去った珠理奈が向かってくる。
この時点で数的不利。
ゴール下には秋元、そして戻ってくる玲奈、宮澤。
珠理奈のドライブが止まった時点で勝負は決まる。
こっちが止めるか、珠理奈がパスをするか……ゴールを許すか。
1つ、選択肢を消す。
珠理奈にパスは無い。
この1点差の状況、キープすれば勝てる状況、ゴール下に秋元が詰めてきている状況。
パスを無視できるわけない、普通であれば。
しかし渡辺はパスを選択肢から消した。
もう珠理奈のその勢い、その表情は、「パスをしない」と言っているようなもの。
中学時代に何度も見たそれは、間違いなくパスしない。
もちろん普段であればそんな理由で選択肢を消すなんてことは出来ないが、追い詰められているのは圧倒的に自分。勝負に出るしかない。
珠理奈が踏み切る。
小森をかわし、シュートの体勢に入る。
そら見ろ、パスは無い。
シュートに踏み切らせてしまえば、あとは無防備なボールを叩き落とすだけ。
平嶋、仲川、菊地が走っているのが見える。

ワンプレー前の渡辺のスリーポイントから途切れない歓声の中、珠理奈は飛ぶ。
空中で対する渡辺は手を出せなかった。
珠理奈がボールを抱え込むように体に引き付けたからだ。
そこを叩こうものならファウルが確定する。
わざわざ無理なドライブで仕掛けて来てくれた。
その上、空中でボールを一度引くという無茶なシュートを選択してくれたのだ。
フリースローを献上する必要は無い。
手を挙げて珠理奈のシュートが落ちるのを待つ。

着地が近づいてくる。
当然それまでにボールを手放さなければならない。
折り曲げた腕ををもう一度伸ばす。
右手に乗ったボールを押し上げる。
着地ギリギリで、手首を使い、ボールを送り出した。
ふわりと舞い上がったボールの最高到達点はちょうどリングの上。
放物線を描き落ちるボールは、ゴンッゴンッとリングの上を2回跳ねる。
そして、ポロリとゴールの内側へと落ちていった。

タイマーに表示された時間は、0.6秒。
小森から渡辺にボールが入り、ボールを投げる前にブザーが鳴り響いた。

割れんばかりの拍手と歓声に包まれる中、珠理奈は呆然と立ち尽くしていた。
同じように立ち尽くす、渡辺を、渡廊の選手を見つめていた。
思考が中々戻ってこなかった。
無呼吸のまま、無我夢中でゴールに向かっていた。
何が起きたか、一瞬記憶すら危うくなった。

どんっと背中に重さを感じて、珠理奈は我に返った。
「全く、ひやひやさせやがってー! 驚いたじゃねーか、このやろー!」
珠理奈に飛びついたのは、宮澤だった。
続いて、指原、玲奈、そして秋元が駆け寄りくしゃくしゃと頭を撫でる。
ベンチに目を移せば、全員が立ち上がり、跳ね回っている。
すぐにでもコートの選手に抱きついて称賛を送りたい、そんな様子でベンチから身を乗り出している。
ようやく理解する。
自分たちが勝ったのだと。

73対70。
スコアボードには間違いなく、都立十桜高校の勝利が刻まれていた。
整列し、挨拶を済まして、退場する。
それを淡々とこなすのは、中々その勝利の実感が湧かないからだ。
しかし、次の挨拶、観客席の前へ並んだ時、自らを包む暖かい拍手で、自分たちが何をやったのか、感じる。
同時に秋元が顔を手で覆った。
声が出ない。
その様子を見て、宮澤が礼の声を、上ずりながらもかける。

「ありがとうございました!」

歩くのもままならなくなる秋元の肩を宮澤が抱く。
「なにっ……泣いてっんだよお……さやかあ……まだっリーグは……終わって……っねえんだぞお……」
うんうんと頷く秋元とまるで人のことを言えない号泣を見せる宮澤を、ベンチを片づけながら微笑ましく後輩が見つめる。
このときばかりは、いつも厳しく隙がない3年生より余裕があるが、それもつかの間、つられた指原を皮切りに結局同じように泣くことになるのは見えていた。

珠理奈は、十桜メンバーが集まる場所から少し離れていた。
飲み物が無くなったから買いに行くという理由半分、皆が泣いている場所にいるのが重苦しかったという理由半分だ。
もう自販機の場所は分かっている。
その途中だった。
満タンのペットボトルを持っているあたり、おそらく同じ目的だったのであろう渡辺麻友と出くわした。
いや、もっと言えば、もう半分の理由も同じだったのかもしれない。
もしかしたらものすごく不機嫌なのではないかと思ったが、予想に反し渡辺は珠理奈と目が合うと、「珠理奈ちゃん」と笑って近づいてきた。

「とりあえず、3勝確定、おめでとう」
「まだあと1戦、分からないじゃんか」
「流石に分かってるでしょ? うちに勝ったらさ」

珠理奈はその言葉をもう一度否定することはしなかった。
片手に持ったペットボトルを開け、渡辺は一口飲んだ。
その間に思い出したかのように渡辺が口を開く。そういえば、と。

「なんなの最後、あの無茶苦茶なプレーは。正直頭おかしいよ」
「その前のスリー2本だって相当無茶苦茶だ」
「私のは100パー決まるの確信してたから。珠里奈ちゃんのはただの無謀。あんなのやられて負けたら一生恨まれても文句は言えないね」

試合中とは打って変わって、興奮した様子で無邪気に話す。
チームメイトだった中学時代に戻ったかのようだった。

「決まると思ってた?」
「……なんとなく」

その答えに渡辺は、ふふ、と笑う。
そっかそっか、と心の中で、いやもしかすると漏れていたのかもしれないが、呟く。
会話はそれだけで、2人は分かれた。
さっきまで敵同士だった相手と長話するのもお互いいいことではないだろう。
渡辺は、試合最後の珠理奈のダブルクラッチ、そして試合前に珠理奈が言っていたことを思い出した。

「全く……やられたよ。珠理奈ちゃんの『なんとなく』は100パーセントみたいなもんなのかなー」
その松井珠理奈が『確信』という言葉を使っていたことを渡辺は確かに覚えていた。
「全国で……絶対リベンジだ」


「珠理奈ちゃんは……あんまり泣くタイプじゃなかったか」
戻ってきた珠理奈に、両目を腫らしながら高柳が声をかけた。
「まあ……今は勝って嬉しくて興奮してる」
「そっか」
そのすぐ横、おいしそうにメロンパンを食べる玲奈がいる。
「似た者同士だなあ」


その1週間後、誠王高校との第3戦。
都立十桜高校は見事に勝利を収め、決勝リーグ3戦全勝を決めた。
そして同時に、初めての、念願の、全国大会への出場を決めたのだった。

続く

やっと終わりました。
ここまで長い試合になるとは思ってませんでした。
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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

Secre

更新お疲れ様です!
最後はじゅりながやってくれましたね!これからどう玲奈と成長していくか楽しみです!

また、更新お待ちしてます(≧∇≦)

Re: タイトルなし

> あおやぎさん

コメントありがとうございます。
少し駆け足になりましたが、これで地区予選は終わりです。
これからの展開を楽しみにしていてください。

No title

秋元と宮澤の上級生コンビが流した涙に感動しました。

Re: No title

> ネコさん

コメントありがとうございます。
試合後の2人についてはもう少し書きたい気持ちもありましたが、今回は珠理奈の方を書くことにしました。
少しでも感動していただけたなら幸いです。
プロフィール

ウロマム

Author:ウロマム
どうも、ウロマムです。
AKB48さんの小説を書いてます。

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